第1話
柔らかい…これは、タオル…?
私の知らない香り。
あれ、私は確かに車に轢かれて…あれ、もしかして助かったのかな
微睡む意識の中、私は少し安心した。
どうせ病院のベッドかどこかだろうと思い、安心してもう一度眠りにつこうとしたとき、声が聞こえた
聞いたことのない、全く知らない、低い男性の声だ。
慌てて私は目を開けた。
すると私の事をずっと見詰めていたのか、気怠そうな顔をした男性とばっちりと目が合った
驚いた私は思わず声を上げた…筈が、喉から上がってきた物は悲鳴でも罵声でもなく、シャー!という明らかに猫の威嚇のそれだった
男性は目をまん丸くして驚いている。
「あー…、猫って目ぇ合わせると喧嘩の合図だっけ…。えー、と…こんな時どーすりゃいいんだ?」
そう言って彼は『猫の飼い方 初心者編』という本に目を向けた。
猫…猫!?
そこで私は初めて自分の手を見た。
真っ白で…ふわふわで…ピンクの柔らかそうな肉球。まぁかわいらしいおてて
なんて私が手を見詰めながら現実逃避していると、記憶から存在を消していた彼が私の顎に手を伸ばし、優しく撫でてきた
思わず耳がピンと立ち、警戒の姿勢に入り喉から先程と同じ威嚇の鳴き声を喉から絞り出す
彼はそんな私の様子に、困った様に眉を下げ手をゆっくりと引っ込める
「あ、やっぱいきなり触んのは不味かったか。えーと…仲良くなるには…、玩具で遊ぶ?」
彼は先程の本に目を向けながらブツブツと何か言っている。
玩具…?私が猫の玩具で遊ぶとでも…?
私が彼をじっとりと睨みつけていると、彼が猫じゃらしを取り出した。
そんなふわふわした物が左右に揺れてるのを見たところで…私が飛びつくなんてこと…ある、わけ…
嗚呼、最悪だ。なんだこの身体、全く私の思考と一致しない…
そう。私は無意識のうちに猫じゃらしという獲物に飛びついていたのだ
「お、食いついた。やっぱり猫じゃらしって猫好きなんだな」
好きじゃない、私は断じて猫じゃらしが好きなわけじゃない。
ただ勝手に身体が反応するだけ、そう、全部この身体のせいだ!
30分程だろうか、結局猫じゃらしに翻弄され続けた。
恐らく子猫であろう私の身体は疲れ果ててしまった。
私は元のタオルの場所にごろん、と寝転がると直ぐに睡魔がやってきた
その睡魔に身を委ねるように目を閉じると、再び彼の手が顎の下へと伸びてきた。
懲りないやつだ、引っ掻いてやろうか。
なんて思うも、襲ってくる睡魔と撫でられる心地よさで私は眠ってしまった。
こうして、私の猫としての第二の人生が始まった
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