第7話

Wボーカル

月野(つきの)ももえ


学園祭を成功させた自信に満ちあふれたホクホクの私達は、今年のむし歯の日、地上波で「映画-ボヘミアンラプソディー」を見てハートに大きな穴があいてしまった。死んだ。みんなで励まし合いをするまで、私達のミュージシャンとしての青春は終わってしまっていた。音楽との有り様に、クリエイティブな事に、私達は燃えつきた。自分の歌声に自信を無くした。私達の演奏は完璧って、そんなわけ無いじゃないか?

Queenのフレディ・マーキュリーの手にした完璧さには一生続けても届かず間に合わない。

私達が大好きな誰もが憧れる効果音がQueenの音楽とフレディ・マーキュリーの恋愛事情に、心の底から震えた。本物だからだ。サドとマゾを乗り越えて心の本性に挑んでいるから。「誰もが理解・共感できる歌を、アウトサイダーのやり方で」との意味であってる筈。玄師もリスペクトした結果(じゃなきゃ王道だ。凄い)を、ラジオで話してるのだろう。耳に馴染みのあるカッコ良い音楽のサビがQueenの作品だったとは、私達はあまりにも若すぎた。知らなかったから他のミュージシャンを天才だと本気で想っていた。音楽の革命家ベートーベン先生には想わない、この知らなかった事が恥ずかしくて悔しい気持ちで溢れてた。そして、それでも何人にも「天才」だと想っていた気持ちも本物だとたどり着いた。だから私は言った。「バンドの練習に少し時間をあけよう」と。

圧倒されたのではなく、完敗したのだから。

惨めな気持ちでアルゴナビスやナナホシレンをコピーするよりも「事実は小説よりも奇なり」をなしとげた偉人が、生まれてきたことを後悔しない生きざまで、駆け抜けたのだから。音楽の為でもあり寂しさゆえに大勢のゲイの男性に淫らなゲイ行為を行い、非難されようと最後の恋人だった彼とは感染したエイズが二人を死で別つ時まで幸せだったのだから。私達は、音楽の為に、其所まで覚悟はできてない。それは此からもだ。誰かが道を踏み外したなら、みんなで其れを止める。私達はその方が良い。

そんな中途半端でも、私はこのメンバーで演奏していた時の幸せな充足感や達成感をまた味わいたい。今すぐには無理だけど。ショックがあまりにも大きすぎて、まともに挑めば、確実に壊されてしまうだろう。個人のペースで練習して、個人技が今のやるせなさを覆すことが出来たら、またみんなで練習に明け暮れよう。こうした、私の気持ちをメンバーに伝えた。もう一人のボーカルは泣いていたが、それぞれにボロボロになった私達は、私の提案を受け入れた。このまま消滅しない事を祈る。こうして、みんなバラバラで時間を過ごした。私は焦る気持ちを殺すのがとても難しかった。音楽がやれる事へのアイデンティティの崩壊とクリエーターとしての激しい嫉妬をストレートに喰らうくらい私達は彼等を愛した。今期の卒業コンサートまであと●日。




Wボーカル金野みかんにつづく

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