第7話 Life goes on.

「嬉しいのじゃ〜」

「クロエに感謝じゃ〜」

「1年分はあるのじゃ〜」


 お茶好きな付喪神たちが喜んでクロエの周りでふわふわ踊っている。新茶の季節なので業務用サイズで新茶を購入した。何事も控えめな付喪神たちなので、この量で1年は保つらしい。


 付喪神たちは余っているものを勧めれば食べるが食事に興味がない。家の掃除や庭の手入れで毎日世話になっているので安上がりにも程がある。


── 業務用のお茶1年分でここまで喜んでもらえるとはね。



「梅は?」

「なあにクロエちゃん?」

「梅は何が好きなの?」

「クロエちゃんとイネ!」


 ニコニコと付喪神たちの喜びの舞を眺めている梅に聞いてみた。梅もお茶は好きだが付喪神たちほどではない。普通に美味しそうに飲んでいるが普通だ。

 梅はクロエと一緒にご飯を食べるが、どんなものでも機嫌良く食べて美味しいと言う。毎日クロエに付き合って一緒に食事をとっているが、もともと何かを食べる必要はないので梅が積極的に何かを食べたがることはない。


 梅のレパートリーは伝統的な和食のお惣菜のみだったが、最近はクロエの影響で洋食や中華なども作れるようになった。クロエが初めてパスタやカレーや麻婆豆腐を作った時も初めて見ると言いながら恐れることなく食べて美味しいと喜んでいた。


「聞き方が悪かったよ。付喪神たちのお茶みたいに梅が喜ぶものを知りたいんだ」

「うーーーーん………特に無いよ」

「無いの?」

「うん。私は座敷わらしだから」

「そっか」


── 梅が喜ぶ姿は可愛いだろうに残念だ。





「よーし!よしよし!」

 発注を受けていたシステムが無事に稼働しクライアントから満足な声が届いた。リピート発注をもらっている先なので順調で良かった。


── 今日はもう仕事もないし買い物に行こうかな。



「梅ー、買い物に行ってくるけど必要なものはある?」

「うーん、特に無いかな。今日はクロエちゃんが食べたがってたビーフシチューだよ。あとは無人販売所の野菜でサラダ。他にクロエちゃんが食べたいものがあったら買ってきて!」

「分かった」


 ビーフシチューならちょっと良いワインとバケットも買って贅沢しようと酒屋とパン屋に寄った。

 スーパーやドラッグストアで生活必需品を購入してから専門店を一回りした。


── 買い忘れたものは無いかな。


 ふと周りを見渡すとケーキのチェーン店が目に入った。


── たまには買ってみるか。


 梅も付喪神も付き合って食べてくれるので苺のケーキをホールで買った。



「ただいまー」

「おかえりクロエちゃん」


 帰宅するとビーフシチューが出来ていて、ちょうどよくお腹も空いていたのでご飯にすることにした。梅が用意してくれている間にケーキを冷蔵庫に入れて、買い置きのワインを開けた。買って帰ったばかりのワインは次の機会に飲むのだ。


「今日は付喪神たちもワインに付き合ってよ」

付喪神たちのぐい呑みにワインを注ぐ。


「赤ワインじゃ」

「初めて飲むのじゃ」

「渋くて美味いのう」


 付喪神たちがチビチビと赤ワインを舐める。梅のビーフシチューもよく煮込まれていてお肉がホロホロだ。


「今日も美味しいよ」

「そう?クロエちゃんのレシピの通りに作ったんだよ」

 梅も美味しそうに食べている。ビーフシチューもパン屋で買ってきたバケットも美味しくて満足な夕食だった。



「ごちそうさま」

「美味しかったね、クロエちゃん」

「片付けは私がするよ」

「ありがとクロエちゃん」

 梅が作ってくれた日の片付けは、いつもクロエだ。


 テーブルの上を片付けたところでケーキの存在を思い出した。


「忘れてた。梅、ケーキがあるよ」

「ケーキ?」

「梅はケーキを食べたことないの?」

「うん初めてだよ。苺が可愛いね」

 クロエがホールケーキをカットして梅に勧める。


 パクッと一口食べた梅の脳天に雷が落ちた。


「う、梅?」

 見たことない状態の梅に不安を覚え、刺激しないよう、そっと声をかける。


「クロエちゃん…私、美味しいって言葉の意味を初めて知ったかも」


梅が涙目だ。


「筑前煮も若竹煮も美味しくて大好きだけどケーキの美味しさって凄いよ!」

「気に入った?」

「うん!」

「じゃあ丸ごとどうぞ」

切り分けた元のホールケーキを梅に寄せた。


「…いいの?」


「付喪神たちのお茶みたいに梅が喜ぶものを探していたんだよ。気に入ってくれてよかった」

 梅の顔が見たことないくらい嬉しそうに輝いた。


「ありがとうクロエちゃん!」


── 喜ぶ梅は可愛いな。


「ねえクロエちゃん」

「何?」

「付喪神のお茶みたいに、年に一回ケーキを買ってもらえるの?」


 キラキラとしたピュアな笑顔で質問されたが自分はもうちょっと甲斐性があると思うクロエだった。

「年に一回と言わずお祝いの時はケーキを買おうね」

「嬉しい!ありがとうクロエちゃん!」


── もっと梅の好みに合うケーキがあるかもしれないので定期的に買って帰るか。…それよりも材料を買ったら梅なら美味しく作れそうだな。後でレシピ本を注文しよう。



 この先も梅や付喪神との生活は快適だろうなと満足なクロエだった。

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