第3話 独りぼっちだった梅

「片付いたね!」

「手伝ってくれてありがとう、梅」


 梅が手伝ってくれて引っ越しの荷物は、ほとんど片付いた。梅は小さいけど優秀だと分かった。


「クロエちゃんの引っ越し祝いで今夜はお蕎麦にするね、天ぷらも揚げるから!」


── お蕎麦にするね?


「梅は料理もするの!?」

「もちろんだよ!光成君のご飯は私が作っていたんだよ」

「えええ…幼女虐待」

「私は566歳だよ」


── 聞かなかったことにしよう。1453年生まれって…梅はコンスタンティノープルが陥落して東ローマ帝国が滅亡した年の生まれだったよ。


「材料が無いでしょう?」

「光成君が買った材料を私の神通力で収納してたから大丈夫!」


「そういえば、この前のカルピスは…」

「これ?」

 梅が何もない空間からカルピスを取り出した。

── 製造年が1997年だった…


「そんな顔しないで!時間停止だから大丈夫だよ」

「いや、気分的に…」


「お野菜はこれ!」

 何もないところから梅が取り出した野菜は採れたてっぽい瑞々しさだった。


「光成君が吉田さんの畑の無人販売所で買ったんだよ。無人販売所は今もあるよ、安くて新鮮だからクロエちゃんも利用するといいよ!」


 埼玉県にある家は、不便なエリアだが無人販売所があちこちにあって新鮮な野菜を手軽に安く購入出来る。

 東京駅まで約40分だが家から駅まで自転車で20分もかかるので、毎日都心に通勤するのは大変だ。


「今度ゆっくり近所を回ってみるよ」

「大きな会員制スーパーも行ってみてね、光成君の頃には無かったけど、きっと楽しいよ!」


── 梅の言う通りコスコが近いのは楽しそうだ


「クロエちゃんは焼酎と日本酒は?」

「日本酒は飲むけど焼酎はあんまり飲まないかな」

「分かった!覚えておくね」

「食事の支度は一緒にしよう。私も料理くらい出来るよ」

「本当に!?嬉しい!」



 梅は手際が良かった。野菜を切る手元からトトトトっと軽快な音が聞こえるし、かき揚げもカラッと上手に揚げている。


「私よりも上手じゃないの」

「えへへ、そうかな!光成君が亡くなってから全然料理して無かったから20年ぶりなんだ」



── こんなに小さいのにおおじいちゃんの世話をして、おおじいちゃんが亡くなった後は独りぼっち…。


「クロエちゃん、お蕎麦は一人前でいいよね!天ぷらはかき揚げ、海老、さつまいも、かぼちゃ、茄子、紫蘇、ピーマン、椎茸、オクラ、とうもろこし、海苔、ゴボウ、竹輪ね!」


── 梅は誰かと会話をするのも20年ぶりなのか…


「クロエちゃん、聞いてる?」

「………聞いてるよ…バカヤロー」

 肩を震わせながら憎まれ口をきいた。


「だから多いと言っているだろう」

「でもクロエちゃんは光成君より若いし」

「ああ確かに若いなあ」

「なあに余れば儂等わしらで片付けようぞ」


── 梅の独り言がうるさいな。一人暮らしが長過ぎた副作用か…


 目に力を入れて振り返ったら着物姿の青年やご婦人や老人が大勢でわいわいと騒いでいた。

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