龍神様の気楽な下剋上

鳴神光

第一章辺境の街オルグ

第1話

「んんぅ…ここ、どこだ?」


眠りから覚め、まず視界に飛び込んできたのは緑の木々と青い空だった。

気分が良いと庭で眠る事もあったが昨日は確かに自室で眠りについたはずだ。何より周囲を見渡しても見えるのは鬱蒼と茂る木や植物だけで自宅の庭でないことは明らかだ。


「ま〜たヘレインのイタズラか?」


ヘレインとはよく私の自宅へ遊びに来る創造神だ。好奇心が旺盛で常識と言うものがないのか、ふと思いついたものを自分の力で生み出し、それをわざわざ私の所で試すという迷惑極まりない事をしでかす厄介な神だ。

この前なんて、家を地面から数cmだけ浮かす装置という誰得な装置を作って、私の家を浮かせるだけ浮かせて帰ろうとした時は流石に怒って説教したのだが。


「あいつは私が怖くないのだろうか?」


何を隠そう私は龍神エクレールだ。自分で言うのもなんだが、最強の象徴たる龍の神で神界でもこと戦闘においては、右に出る者はいないほどの実力を持つ女神だ。

銀色の長い髪に少し気だるげな金色の眼。気だるげなその眼の奥には確かに龍種の覇気が宿っている。

そのためか大抵の神々は私と目を合わせようとすらしない。まともに話せるのは彼女か最高神であるゼレス位のものだ。


「んー。どうしよっか。」


まずこの状況をどうにかしなければならない。自宅で眠って居たはずなのに起きたら森にいる。しかも全く見覚えのない森へだ。

おそらくヘレインの思いつきで私は何処かへ転移させられたのだろう。

転移で帰ろうにも神界は無駄に広いので、ここが何処なのか分からない。転移は自分のいる正確な位置が分からないと使えない。なんとも不便だ。しかし使えないもののことは考えても仕方無い。


「とりあえず周囲を探って見るしかないか。……ん?…神気が使えない…?」


エクレールは周囲を探ろうと神気を使い、周囲をサーチする魔法を使おうとするもそれは失敗に終わる。

神気とは神専用の魔力みたいな物だ。魔力は人や魔物といった生物も持っているが神気は神のみが扱える。簡単に言えば効率のいい魔力だ。例えば魔力を100使って発動する魔法なら神気を使えば1使えば発動できる。しかも神気による魔法は神気でなければどうにもできないというとんでもないおまけ付きだ。エクレールはその神気を誰よりも多く持ち、誰よりも上手く扱えるというのに全く魔法が発動する気配がない。よくよく自分の体を見てみれば腹部に封印の印が刻まれている。


「ヘレインのやつ!今度会ったら説教じゃ済まさない…」


大方、『エクレールの神気を封印して何処かへ遠くへ飛ばしたらどんな反応するかな?』などと言う思いつきで実行したに違いない。

次にあったらお灸を据えてやるしかない。

そもそも龍神である私の神気を、気づかれずに封印するなんてこと自体、普通あり得ないことだ。だがあの創造神が本気でやろうと思えばおそらくできてしまうだろう。しかもエクレールですら解読に長い時間を掛けなければいけないほどの複雑な封印をだ。


「こんな形で魔力を使うことになるとはな…とはいえ、魔力を使うのは久しぶりだな。」


神になって以来、意識して魔力を使うのは初めてだ。とはいえ魔力が衰えないよう無意識下で強化魔法を発動させていたので、魔力の使い方を忘れるなんてことは無い。ただ、神になってからはひたすら神気を鍛え続けてきたので、なんだか懐かしい感じだ。しかし待っていたのは救いようのない事実


「まさか…ここって下界…?」


久々の魔力による魔法発動(無意識下で魔法を発動させていたので正確には久々ではないが)で思いっきりサーチを広げた結果分かったのはここが途轍もなく広い大森林だと言うことと、ここが神界ではないという事だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る