神樹と魔人

蒼樹エリオ

第一章 神樹の村・メイズ

1-0 メイズの巫女の口伝・「この世の始まり。混沌と秩序」

 かつてこの世界は混沌広がる大地であった。

 空は嵐が吹き荒れすべての生き物が凍えるまでの間光を隠したかと思えば、地上に住む生き物を焼き尽くす輝きがとめどなく降りそそぐ。

 大地は嵐によって広がる死の息吹で荒れ果て、動物も植物も誰ひとりとして同じ姿をしたものが無い。

 海は風と大地がなだれ込むと七色に濁りだし、荒々しく陸を飲み込み、地の底を震わせては吐き出すように押し上げると嵐と共に不毛な大地を押し広げる。

 倦まず弛まず変わり続ける世界。命の輝きが一つ、また一つと失われる中で神々は憂いた。

「世界に秩序を。星に命を。我らの子供に幸福を」

 神々は世界に一本の樹を植えた。その樹は空を、大地を、海をも貫き、世界に神々の慈悲を広げてゆく。

 広がる樹冠は空をなだめ、昼と夜とを秩序立てた。

 幹から広がる薫風は死の息吹を癒し、同じ顔をした仲間を地に満たす手助けをした。

 根は大地の底まで張ると、波濤を抑え込み穏やかな潮さいをもたらした。

 神がもたらした樹、神樹によってこの世界は混沌に次ぐ秩序という始まりを迎えることが出来た。神樹は神々からの愛、我らを見守る慈悲である。その力は絶えることなく常に我らと共にある。

 メイズは神樹と共にある。この樹ある限り、我らが滅びることは無いだろう。

――メイズの巫女の口伝・「この世の始まり。混沌と秩序」

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