第5話 知らない人

「やあ♪」


知らない人の声がする。

なんだ?全然意識がはっきりしない。頭も痛い。


「ちょっと麻酔が強すぎたかな♪」


麻酔?なんだそれ?そんなのくらった覚えがないんだけど…てか誰なんだ?

10分間経ってようやく意識がはっきりとしてきた。


「おはようございま~す♪」


俺は得体のしれないこいつを睨みつけながら言った。


「あんた、何してくれてんの?」


身長は結構高くて180㎝以上はある。顔は般若の仮面を被っていてわからない。

内心恐怖でいっぱいだったが舐められるとまずい気がした。


「いやいや♪ちょっといろいろあってね?君を見てみたくなったんだよ♪村上智尋くん♪」


ケタケタと笑っている。

変な奴だ。どうして俺の名前を知っていて、見てみたいとか言ってんだ?意味が分からな過ぎて混乱してくる。

すると、仮面の男はまた話し出した。


「君、東帝高校生だろ?♪」

「そうだけどそれが何だってんだ?」

「姉は何も言っていないようだな♪」

「どういうことだ?なんで秋姉が出てくるんだ!」

「まあそのうち分かるようになるさ♪しっかり耐えるんだぞ♪死んだら承知しねえからな」


とりあえず何言ってんだこいつ。なんかやばい薬でもやってんのか?

ただ、最後の言葉は本気の言葉だと何故か感じた。少し冷たい声だった気がするが……

俺は絶対、こんな奴にはならねえぞと心にこっそりと誓う。

仮面の男は手を振りながら俺の部屋から出ていった。その際小さな声で何か言っていた気がするが、俺には何を言っているのか全く聞き取ることができなかった。


―――”死ぬわけないんだけどな★”―――


俺はすぐに秋姉に電話することにした。

電話に出るまでの時間にいろいろなことが頭に流れる。

え、なに、あいつ秋姉の彼氏とか?そんなわけないだろ!?

秋姉があんなやばそうなやつ好きになるわけないから!

変にモヤモヤした気持ちのまま待ち続ける。

プルルルル プルルルル プルルルル ガチャ!


「もしもし。どうしたの?智尋くん」

「秋姉、なんかさっき変な奴が俺の部屋に入ってきてたんだけど、秋姉のこと知ってるような口ぶりだったんだよ。

耐えろとか。死ぬなとか。わけわからんことも言ってたし。」

「え!?智尋くん何かされたの?(一色何考えてるの?まだ接触するなと言っておいたはずなのに!!)私の知ってる人よ。私が智尋くんのこといろいろ話しすぎちゃったの。だから興味を持ってしまったんだと思うわ!」


秋姉焦ってるのか?早口で話してくる。

なんだかそばでジュウジュウと音がする。


「ごはんとかつくってた?ごめん、タイミング悪かったよな。」

「い、いいのよ。それよりも夜更かしとか絶対したらだめだからね!」

「わかってるって。それよりのどかはどうしてる?『しっかり勉強しとかないとダメだ』って言っておかないといけないから!」

秋姉は笑いながら

「わかったわ。フフッ」

秋姉の笑顔が簡単に想像できる。そして、電話の奥から小さいけどのどかの声が聞こえてきた。

「おにーちゃんはいちいちうるさいし。今は自分のことだけ心配しときなさいよ。」

「自分を心配?」


どういう意味かは全く分からない。

秋姉が何か必死にのどかを注意している。

「ワ~ワ~」


まあいいや。忙しそうだしもう切っておこう。

そうして電話を切った後、部屋を見渡す。

あのへんな奴、土足で入り込んでやがる。絶対に許せない。俺は床をピカピカになるまで磨いた後、ハンバーグをつくることにした。

そろそろ俺も料理くらいはできないとな。

インターネットで作り方を調べる。


「ハンバーグ 作り方 コツっと。お、色々出てきた。」


合挽き肉は、牛肉が6で豚肉が4。

炒めた玉ねぎは冷ましてから混ぜるといいらしい。

タネの空気をしっかり抜く。しっかり抜くには両手でキャッチボールのようにするように……手に触れる時間も長かったらだめなのか。

最初は中火で裏面は弱火でじっくりと。フライパンの温度は上がりやすいので、中に火が通る前に外側が焦げ付くだって。


「へー。料理って奥が深いんだな。」


それなりの出来に仕上がった。秋姉には及ばなかったが、普通においしかった。

俺は満足し、今日あった出来事など忘れて深い眠りについた。

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