さかなの手帳

桐谷佑弥

さかなの手帳自選

2016-2017/twnovels

■27 

#140字小説

なんで逃げなかったのさ。

貴女はそう呟く。涙の水溜りの中には僕らだけがいた。だって綺麗だったからさ、君が産んだ化物は、とても。

ほら。泣き腫らした顔を上げれば、飛空挺が街を呑み尽くすのが見えるよ。最後の摩天楼も呆気なく崩れた。新世界。砂の城を深海魚が食らう。

2017年3月23日·午後11:41




■20 

#140字小説

その世界では、古生物が雪になって降ってくるよ。捨てた夢は石油になって明りを灯す。吐いた悪夢は絵の具の原野に積み重なって雲母になるんだ。素敵だろ? 人なんていないよ、誰もね。いるのは影になったお化けの紳士淑女たち。何故かって? 大人の僕らは綺麗な夢が嫌いだからさ。

2017年2月26日·午後10:58




■46 #140字小説

虚空を見つめる幽霊が居る。僕の部屋に、いつからか居着いていた。なにかぶつぶつと嘆いているだけ。別段害もない。10年程たった今も、幽霊の言葉はわからないけれど。ある日、丸めた新聞紙が、幽霊の肩のあたりのある空間に触れた。手応えは無くて、次の瞬間 幽霊と目が合った。

2017年7月18日·午前2:28




☆19 #泣くという言葉を使わないで泣いている様子を表現してみる


ぼくの世界は小波に飲まれ

2017年2月27日·午後11:35




☆22 

#君・僕・死で文を作ると好みがわかる


君はカスピ海に、僕は死海に。

2017年3月17日·午前2:16




☆15 

#夜という文字を使わずに夜が来たを文学的に表現してみろ


ライラック色の猫と逢う

白い小舟に星が降る

砂の蜥蜴が屋根を這う

化石の空、月が憂う

2017年1月29日·午後9:11



*

■22 

#140字小説

夢は夢らしく散るのが一番美しいので、


はなうらない


桜は桜らしく散るのが良い


雨宿り


出会って、別れた。だから捨てた。記憶はそこで途切れている。


僕が見上げると、小枝には白い幽霊が引っかかっていた。


ねぇ、どうすればいい? (よかった?) やり直せたら

2017年3月8日·午後9:47



■15 

#140字小説

まだ終わっちゃいない。

自転と公転のあるどこかの星で、日付変更線が朝を告げる。

赤色と青色の狭間で風見鶏が軋る。風が吹いた。


どこか遠いところから、破れかけたレジ袋が飛ばされてきた。ゴミだ。飛んでけ。海を越えて、国を越えて。そして、何も変わりはしないのだ。

2017年1月30日·午前0:56



■28 

#140字小説

眠くてぽわぽわとしてた。暖房の効きすぎた教室の片隅にて、ミネラルウォーターを流し込む。ビー玉の味がしたんだ。冷たい。

目が覚めた。思い出した。僕がさっき買ったのはミネラルウォーターじゃなくてオレンジジュース。窓から蝉の声が流し込まれる。でも今はまだ冬なのに。

2017年3月23日·午後11:51



■52 

#140字小説

もう聞き飽きたんだ。明日咲く木槿の話、今日見た虹のこと、昨日見た海の広さ。携帯端末は日光を知らないマットレスの上、根を生やして明滅する。ネオン街の狂騒も、深夜のコンビニの肌寒さも知らないまま夜が明けてしまう。ベランダで花を見たら、遮光カーテンに守られてまた眠るの。

2017年8月14日·午前1:48



■19 

#140字小説

乙女の天秤が夜空を衝く。冷たい虚の底に据えられたそれに腰掛けてみた。揺らぎもせずに、数刻が過ぎた。

無機質な皿に身を預けた僕と、空の皿。

解ってたさ。笑う僕は、泣きたい気分だった。

乙女の浮かべる微笑は不可知。冬空に降るは、星か、雪か、白い花弁の欠片だったか。

2017年2月26日·午後10:36



■45 

#140字小説

水面に映った石像は泣かない。白骨化した海鳥は遠い故郷を忘れてしまった。

白い結晶を瓶に集めよう。それが青で満ちたって虚ろな色は変わらない。

移ろう時に願うのは変わってしまうのが怖いから。だから、短い雨季の度に降る星を踏む。

塩の湖は枯れた。ただ、止まない雨を待つ。

2017年7月13日·午前7:59【The Lost Lake】



△2 

洋館の小部屋のお化け

写真の隅に声を仕舞うの


おぼえてる? あの円舞曲

天使の羽をルビーで飾った


オルゴール

忘れたかったわ

不協和音と惨状のあと


2017年2月6日·午後10:40/2017年2月6日·午後10:43/2017年2月6日·午後10:46



☆31 

#雨という文字を使わずに雨が降るを文学的に表現してみろ


そらでしんだ巨大なさかなが

鉛のウロコをばらばら落とす

2017年9月13日·午前0:39



☆‘1 

#私の幸せな時間


朝を纏い夜に濡れて

見知らぬ海を渡ろう


ほら記憶は零れてく

砂の様に落ちていく


三日月の手漕ぎ舟で

ビーズの河を行こう


カーテンすり抜けて

独りでうつらうつら


だって、その一時は

全部僕のものだから

全部僕のものだから

2016年11月29日·午後11:57

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