クソレビュアーの俺が美少女作家を叩いた結果→告られました
【世界一】超巨乳美少女JK郷矢愛花24歳
第1話 クソレビュアーと美少女作家(上)
俺、本部読幸(もとべよみゆき)はどこにでもいる普通にオタクな男子高校生。
貴重な青春をオタク趣味に費やす、模範的なオタク学生。
今日もお気に入りの静かな喫茶店で、ラノベ文芸の新人賞受賞作を読了したところだ。
「はい、この小説クソ―っ!」
俺はその小説の背表紙を見る。
著者名・三鈴彩花(みすずあやか)。
俺の貴重な金と時間をドレインしたくそ作家のペンネーム。
スマホを取り出し、レビューサイトとTwitterを利用して、早速このクソ小説を叩きのめす感想を書き込んでいった。
途端、荒れるコメント欄。
『出、出出出―wwクソレビュー奴―w』
『クソレビュアーの「もとべぇさん」降臨ワロスww』
『こいつ叩けばいいと思ってるクソ雑魚じゃん!』
『学校で友達はできたかい? 本も良いけど、リアルの友達も良いもんだぞ』
現れるクソ作品擁護の……というか、俺自身のアンチども。
俺は一人でも多く、クソ作品を読んで時間を無駄にする人間を減らしたいだけなのだが、なかなか理解を得られない。
いや、まぁ。得られるとも思っていない。
完全に自己満足の世界だ。
……はぁ、と俺はため息をつく。
それから俺は席を立ちあがり会計を済ませて外の空気を吸ってから、青空を見上げた。
俺、本部読幸はどこにでもいる普通にオタクな男子高校生。
貴重な青春をオタク趣味に費やす、模範的なオタク学生。
――クソレビュアーとしてネット界隈で悪名高いことを除いて。
☆
翌日。
いつも通り、退屈な高校の授業が終わった。
放課後は、アルバイトに行くか、書店で新刊を見に行くか、喫茶店で読書をするか。
そのくらいだった。
……友人と遊びに行く選択肢がないのは、ご愛嬌。
とりあえず、アルバイトもないし新刊の発売日でもないから、喫茶店にでも行って読みかけの本を読もう。
そう思い、高校の最寄り駅近くにある喫茶店に入る。
「いらっしゃい」
店主の渋いおっさんが言った。
そのまま空いている近くの席に腰を下ろし、いつもの注文を終えてから店内を見る。
落ち着いた店内の雰囲気、読書にはもってこい。
もう少し早い時間帯ならばサボりの営業マンや、暇を持て余した主婦風のマダム達がいるんだけど、今店内にいるのは俺ともう一人の少女だけだった。
そいつは、黒髪が色白の肌に映える、かなりの美少女だ。
ついでに言うと、そいつは俺と同じ学校で、同じクラスの奴だ。
クラスメイトだからと言って、話しかけたことも話しかけられたことも一度もないんだけど。
彼女は、名前を綾上鈴(あやかみすず)という。
普段からこの喫茶店でコーヒー飲んでパソコンいじったり本を読んだりしている、友達の少なそうな少女だ。
その友達が少なそうな美少女、綾上が俺に視線を向けてきた。
目が合う。
なんとなく俺は会釈をする。
普段なら、彼女も一つ会釈を返し、手にした本に視線を落として読書を再開するところなのだが、今日は様子が違った。
あろうことか、視線を合わせたまま俺の席に向かってくるではないか。
……え? 俺なんかしたっけ?
いや、何もしていない。
じゃあ、なんで?
そうは思っても、答えなんて出るはずがなかった。
「君、同じクラスの本部君だよね?」
「え、あ。うん」
「同席しても、良いかな?」
「え、あ。うん」
「ありがとう。それじゃ、失礼します」
そういって綾上は俺の正面の椅子へと腰かけた。
……え、なんで?
訳が分からなかった。
俺たちは別に仲が良いわけではない。
これまでだって、同じ店内にいたことはあったのに、なぜ今日に限ってこんなイベントが起こるんだ?
考えてもわからない。
俺は正面のおすまし顔の美少女に、直接尋ねることにした。
「え、と。何か、俺に用でもあった?」
少しだけ照れくさそうに、口元に笑みを浮かべる綾上。
一つ頷いてから、
「その、君が昨日読んでいた本の感想が聞きたくって話しかけてみたの」
と、告げた。
その言葉に、俺は昨日読んだ本のことを思い出す。ええと、たしか……
「小説新人賞佳作受賞作の『奇跡』。著者は三鈴彩花みすずあやか。俺が昨日読んだ本といえばそれだけど、その本の感想が聞きたいの? ……なんで?」
問いかけると、どこか困ったような、しかし、なぜかうれしそうな表情を見せる綾上。
……あれかな。俺と話ができて嬉しいとか?
モテ期なのかな?
「私、実はあの小説が気になっていて。昨日、君が読んでいるのには気づいたけど、恥ずかしくて感想を聞けなくて。でも、実際に誰かの感想を聞いてみたいと思いなおして、だから今日。勇気を出して話しかけてみたんだけど……やっぱり、ダメだったかな?」
不安そうな表情で、少し震えた声で言葉にした綾上。
やはり、その表情には未だ不審な点が見受けられたが……事情は大体分かった。
綾上があのクソ小説に大切な時間をドレインされないように、俺がしっかりと感想を伝えてあげなければならない。
使命感に燃える俺は、スマホを取り出し操作を始める。
「俺さ、本の感想をレビューサイトに投稿しているんだ。昨日、ちょうどその小説のレビューをアップしたとこなんだ。ちょっと長いかもしれないけど、感想が知りたいなら読んでみて」
ネット上のハンドルネームがクラスメイトにバレてもかまわない。
なぜなら、クソ小説の被害者を一人でも少なくするのが、俺の使命だからだ。
「っえ!? か、感想って、ネットに書き込みまで……!?」
何故か、うれしそうな声を漏らした綾上。
理由がわからないが、さっきからちょくちょく反応がおかしい。
が、俺の勘違いなのかもしれない。
作者の気持ちを考えるのは得意だが、生身の人間の思考を読み取るのは無理な男子高生俺。
不要にツッコミを入れてキモがられる前に、スマホのブラウザを起動してレビューサイトの俺の投稿を画面に表示させた。
「ほら、これが俺の書いた感想だよ」
そのままスマホを受け取る綾上。
「ありがとう。早速読んで……」
ガシャン!
言い終える前に、彼女の手の中から滑り落ちた俺のスマホ。
「えっ!?」
何を驚いたのか知らないが、綾上は不意に声を上げる。
「お、おいおい。もっと丁寧に扱ってくれない?」
声を荒げたりはしないが、さすがにスマホを落とされると、少し気分は悪い。
テーブル上に落ちたスマホを拾って、画面を確認する。
とくに液晶が割れた様子はない。ホッと一息ついてから、
「ほら、気を付けてくれよ」
と、言って渡そうとするのだが、彼女の視線は既にスマホではなく、俺に向けられていた。
え、何?
熱っぽい視線だ。思わず、どきりとしてしまう。
俺たちは無言で見つめあっていたが、先に彼女が口を開いた。
「『何が書きたいのかは明確だ。しかし、そのテーマを読者に伝える技術が乏しい』」
……いきなり何を言い出しているんだ、こいつ?
と思ったけど、すぐに気づいた。
「『テーマを考えれば登場人物に感情移入をさせなければならないのに、本作ではストーリー進行のためにそれが軽んじられていた。そのため、クライマックスのシーンではいまいち物語に入り込むことができなかった』」
これは、俺が昨日書き込んだ『奇跡』のレビューの一部だ。
興味がある作品なのだ、ネットで感想を探しても不思議ではない、どころか自然だ。
だが、それにしても……。
「『熱量は感じられる。しかし、全体的につたない技術がどうしても目立つ。設定の粗が物語への没入感を邪魔してしまう。本作は、読む価値のないクソである』」
たとえ、興味のある作品の感想といえども、それを諳んじて唱えられるなんて、普通ではありえない。
俺は目の前の少女、綾上鈴が別人になったのでは、と寒気がした。
「君が、『もとべぇ』さんだったんだね」
「うん、そうだけど。……ネットで有名なクソレビュアーこと『もとべぇ」です」
とりあえず、俺のことを知っていそうな反応だ。
悪名高いクソレビュアーがクラスメイトだった、というのは確かに衝撃的かもしれない。
「クソレビュアーだなんて、とんでもない。君は、誰よりも真剣に、真摯に作品に向かい合ってくれる、最高の読者じゃない」
「……それって、俺であってる? 勘違いじゃない?」
「勘違いじゃない。君で、あってる」
優し気に微笑んだ綾上。
いや、俺がクソレビュアーと呼ばれているのを知っているのに、この反応。
正気とは思えないんだよな……。
戦慄する俺は、心を落ち着けようとコーヒーカップを手に取り、口を付ける。
「私とお付き合いしてください」
「ブッ!???!?」
その口に含めたコーヒーを、驚きのあまり吐き出した。
「な、なに言ってんの綾上!? え、何? 罰ゲーム?」
理解を超えた発言を受け、焦る俺。
とりあえず何かの間違いか趣味の悪いいたずらのどちらかの線を疑ってみた。
「あ、ごめんなさい。そうだよね、順を追って説明しないといけないよね」
凛とした表情を、俺に向けてくる綾上。
そして、深呼吸を二度、三度と繰り返してから……
「初めまして。私は『奇跡』の著者『三鈴彩花』です」
「……はい?」
「この度は、拙作を購入いただきありがとうございました。その上、熱心な感想まで書き込んでいただいて、なんとお礼を言ったらいいのか」
「…………はい?」
「と、いうわけで。私と結婚を前提にお付き合いしてください」
……は?
こいつ、いきなり何言ってんの?
綾上の言葉が何一つ理解できなかった俺は、
「………………はい?」
と、ただ一言応えるのが精いっぱいだった――。
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