第49話 今度は私達が

「あ、来た来たっ。おーい。みんなー」


 体育館内の特設ステージに着くと、秋津さんが既にステージ袖で待っていた。高く手を上げて、ふりふりと腕を振ってアピールしている。

 朝倉さん、先輩、七音さんはその声を聞き側まで駆け寄る。俺と飛猿も遅れてそこまで歩いていった。


「ごめんね香澄ちゃん。遅くなっちゃって待たせちゃったかなぁ?」

「ふふっ。私も今来たばっかりだから心配いらないよ。メイちゃん……。っと、君らも来てくれたんだね。ありがと」


 そう言うと秋津さんはふんわりとした笑顔でこっちに向かって微笑む。

 ……今更だけど、先輩たちって可愛いし、綺麗だよな。なんてどうでもいい事が頭をよぎった。


「そりゃ、勿論ですよ。俺達も秋津さん達の演奏はすごく気になってましたから。ね、飛猿?」

「ん? おうおうせやせやそうでっせ。いやーライバルがどんな演奏するのか見ものですわ。むっさしてまっせ」

「……ねぇ、なんか煽ってる気がするのは俺の気のせい?」

「知らん。ま、振った君が悪いってことで」

「えぇ……」


 ……ったく、こいつは捻った言葉一つ二つ言わないと気が済まないのかよもう。そして俺に責任転嫁しなさんなっての。その行動を選択したのは君なんだからさ。


「ふふ、君らいつも通りだね。そうでなくちゃ私達も張り合いがないよ。変に緊張されてベストパフォーマンスが出来ませんでした、なんて言い訳は聞きたくないから、ね?」

「……お、言いますね。随分と自信があるみたいじゃないですか。ちょっとしてやられた……かな?」

「えへへ、この前の発表会の時のお返し、だよ?」


 ふんわりとした見かけによらず、秋津さんって結構根に持つ性格みたいだ。でも、それでもいい。

 それだけ闘志を燃やしてくれているということなのだろう。それなら、こちらも全力でぶつかれるというものだ。


「ほーん闘志メラっメラなようで何よりやないですか……。んで、パイセン達はこれから軽く音出しですかい? 12時半から演奏でっしゃろ?」

「そうだねっ。じゃあそろそろ行こっかみんな。時間に遅れちゃうといけないし。ほら早くっ」

「ちょっと芽衣子、急に走んないの……。ま、私達の演奏、楽しみにしててよ。この前よりかは君らを驚かせられると思うから、さ」

「ふふ、なんだかんだで美優ちゃんも燃えてるね。ワクワクしてる感じが可愛いなぁ」

「揶揄うなっての、もうっ」


 七音さんは自信たっぷりな口調でそう言うと、朝倉さんを追いかけるようにしてステージ袖へと向かった。まぁ、秋津さんの言葉に少し顔を赤らめてたけど、それはそれで微笑ましいとさえ思えるな。


 ……さて、この場に残るは先輩だけになった訳ですが。


「……で、先輩もこれから演奏ですよね。楽しみにしてますよ?」

「ええ。思いっきりってくるわ。今回の芽衣子達との演奏、実はすごく楽しみにしてたしね」


 そう言うと、彼女は俺達の前に躍り出る。

 そして、振り返って朗らかに笑った。


「この前は貴方達が芽衣子達を驚かせたけど、今度は芽衣子達が貴方達を驚かせる番、かもね。……ふふっ。楽しみにしてて頂戴ね?」


 そう言って先輩はひらりと手を振り、颯爽とステージ袖へと消えていった。やっぱりカッコいいよなあの人。

 でも、そうか。そこまで言われちゃうと少しドキドキする。どんな演奏をするんだろう。


 もしかして俺たちよりも――――? そう思うと手に汗が出てくる。


 でも、それ以上にワクワクもしてきた。

 だって、そうだろ。


 そう言ってもらえるくらい、彼女達は俺達に対してなってるんだから。


 さて、どこまでやってくれんのか聞いてやろうじゃないか。なんて、柄にもなく、そんな事を思った。

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