第47話 本番までの幕間劇①

 さて、あの後本番までそれぞれのクラスの出し物を手伝うため、一旦は別れた。俺と飛猿は同じクラスだから、一緒に行動しているけれど。


 ……とはいえ、俺のクラスの出し物は劇。俺も飛猿も小道具とか背景制作などの事前準備組だったため、本番はマジでやることがない(役者組に差し入れ持ってく程度だろうか)。故に――――、


「……参りました。いや、いつになったら勝てるんだろ」

「いうて一手差やしそこまで落ち込むことでもないやろ……。勝たせていただきましたわ」

「一手差は大差、とも言うけどね。でも昔に比べたらいい勝負、できるようになってきてんのか」


 将棋部の出し物である、対局道場に顔を出してる訳だけど。こっちはこっちであんまり人来ない。いや入っては来てるけど余裕がめっちゃあるというか。結局、どのみち本番まで暇だ。

 今は午前の10時。俺達の出番は13時半頃だから……、まだ時間的には全然余裕がある。


「……中盤で角捨てて飛車成ったとこまでは悪なかったと思うんやけどな、問題あるとするならその後か」

「確かにね。結局終盤になるとどう差せばいいのかわからなくなる……って、結局終盤力かぁ俺の課題」

「ま、せやな。強くなりたきゃ詰将棋解け。読みの精度上げろ、ほい解決ゥ」

「そんなすぐ結論付けちゃったら、この後我々マジで本番までやることなくなっちゃうんですが?」

「しゃあないやろこれ3戦目やし。もう感想戦すんの飽きましたわ――――、って確かにこれからどーすっぺ」


 飛猿はそう投げやりに言うと、背もたれに体重を預けて天を仰ぐ。

 朝倉さんのバンドの演奏を見に行くのもいいけど……、彼女達は俺達の直前。詰まるところ彼女達の演奏もまだまだ時間がある訳で。


 仕方ない。かくなる上は――――、


「先輩達の出し物見に……、行きますか? あんまり乗り気じゃないけど」

「あ? あー、せやなあのパイセン達校内規模で見てもだいぶ人気あるやろし、会いに来ました言うたらクソ目立つやろな。しかも御門氏はパイセン達とライブハウスで演奏しとるし。女装してたとはいえバレるやつにゃバレるやろな」

「うん、そんなとこだ――――って、少なくとも君に言うべきじゃなかったなうん忘れて。何目ぇキラキラさせてんのさ」

「お? 俺にそれ言うって事はフリか? まー振られなくても行く予定やったけど。考えてみたら面白そうすぎる」


 やらかしたわ。こんな話飛猿が面白がらない訳なかった。俺、何回墓穴掘れば気が済むんだろ。

 ほら飛猿の奴ってば目の前で目ぇ爛々とさせてやがるし。なんでこーいう時に限ってめっちゃイキイキすんのか。


「ほれ行きましょ。スタンダップスタンダップ。善は急げやほれ早く」

「どこに善要素があるのか教えてほしいよ、全く……」


 しょうがないな。こうなった飛猿は強引だから。そう、半ば諦めて席を立とうとした、その時。


「あ、いたいたっ! 音無くんと平手くん。やーっほ」


 聞き慣れた声が、部屋に軽く響く。噂をすればなんとやら、だ。

 そう、その声の主は――――、


「……朝倉さん、と、先輩と七音さんも」

「君らのクラス行ったらいなかったからさ。聞いたらここで別の出し物やってるって聞いたんだ。で、何々? 何やってるの?」

「悪いね。芽衣子……と、静もか。君らがどんな出し物やってるのか気になるって言って聞かなくてさ。来ちゃったよ」

「――――ごめんなさいね。芽衣子が言い出して、それで私も気になっちゃって。らしくないわね」


 七音さんに指差され、照れたように笑う先輩。

 ――――なんか、さ。そんな先輩見ちゃったら、だよ。

 

「ん、にゃ。別に、いいですよ。俺達も先輩達の出し物見に行こうかなんて言ってましたし……」


 もう、あれだけ先輩の所に行くの躊躇ってたこととかどうでも良くなっちゃうじゃんか。

 それだけ、今の先輩は俺にとっては可憐に映った。


「……やーっぱ御門氏って明星パイセンには甘ぇよなぁ。やっぱこれが」

「平手くん、それ以上は……」

「あら朝倉パイセン。良いわねぇあの2人」

「ねーっ」


 もううるさいよ。2人とも。

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