第4話 ドラム候補発見
「ま、そりゃおめでとさん、ですね。漸く君の青春が動き始めた訳でしょ?」
「そこまで大袈裟なものではないと思うけど、そうだね。少しワクワクはしてるよ。だけど……っと危ねぇ」
放課後、囲碁将棋部が部室として使ってる和室Aにて、俺と飛猿は将棋を指しつつ、俺の今後のことについて話している。
囲碁将棋部は基本「来たい人間は来い」というユルいスタンスなため、俺も週2くらいの頻度で通っている。
「メンバーけ? なかなかいないだろうなぁ参加してくれるやつ。君、軽音部に友達あんまいないだろうしな」
「言い返したいけど否定できねぇのがつれぇわ……ってだぁくそ切れたっ!?」
「はい、コンマ数瞬で俺の勝ちな。考えすぎだ」
ちなみに今やってた将棋は10秒将棋。その名の通り持ち時間一手ごとに10秒しかない奴。直感力がモノを言うジャンルだ。
で、盤面は駒がぶつかり合い、成駒がお互いに主張し合っていることからそろそろ終盤戦に差し掛かろうかというところ、だったんだけど、俺が時間を切らしてしまった。対局時計の時間切れを知らせる電子音が虚しく響く。
……まぁ、俺が対振り飛車持久戦であいつが振り飛車穴熊だったんだけど、穴熊ってやっぱり堅いっすね。どう攻めるか一瞬考えた結果がこのザマよ。
「……まさかとは思うけど、考えさせて時間切れ狙いで穴熊組んだなんてそんなこと」
「それもある。君なら絶対手ェ詰まるって思ったしな」
「チックショウやりやがったなぁ!?」
「戦略だ。考えたお前が悪い」
考えたら負けとかいう将棋の根幹を揺るがしかねない(気がする)とんでもない理論が飛んでくるけど、それが10秒将棋だ。しょうがない。
まぁ、なんか釈然としないけど。わかる? この気持ち。
わかんないよね。知ってる。
「で、話戻すけど、どないすんのメンバー。聞いた感じだと2人ともパートはもう固定なんだろ?」
「まぁ、ね。取り敢えずベースとドラムを見つけようってことになってる。リズムギターのある曲は最悪俺がそこに回ればいいし、ギターはもう大丈夫なんだけど」
「まぁ、でしょうね。でもベースはともかくドラムは中々いないんじゃないの?」
「そう、なんだよね。ベースは先輩、探すって言ってくれてて今交渉中なんだけど、ドラムがね……」
そう。あれから数日間、俺たちはメンバー探しに奔走してる訳だけど、当然のことながら中々見つからずにいる……と、言っても俺は軽音部において人脈皆無なので、先輩のツテを頼りにしてる訳だけど。
正直、ベースはいいとしてドラムが全然いない……というか大体が「今のバンドに集中したい」とか「そもそも君らがやろうとしてる曲がわからないからやだ」とかで断られてしまっている。
……まぁ、ある意味俺が懸念していたことが現実となってしまった訳だ。彼女は「最悪校外から助っ人を呼びましょう」と言ってるけど。
アテ、あるのかな。すごく不安なんだけど。
「へぇ。早速前途多だな。大丈夫か?」
「……正直、大丈夫とは言い切れないよ。でも……」
「なんとしてでも見つける、か?」
「ああ。そのつもり。こんなチャンス滅多ないし」
漸く、一緒に気兼ねなく音を重ねられる人ができたんだ。こんなチャンス、この程度でフイにしたくない。
だから、なんとしてでも見つけ出すつもりだ。彼女の言う通り、最悪外からだって連れてきてみせる。
飛猿は意外、と言ったように少し目を見開く。
「なんか意外っすね。御門氏がそんなこと言うなんて」
「そう? 意外と俺、諦め悪い性格よ?」
「それ自分で言ったらおしまいよ……。で、そんな諦めの悪い御門氏に質問あるんだけど、いいか?」
「? なにさ、急に」
ふう、と何かを決意したように息を吐く飛猿。
その次に、彼から放たれた言葉は、
「俺がドラム叩けるって言ったら――――――、お前はどうする?」
「え、そりゃ――――――って」
想像の斜め上を遥か彼方突き破っていった。
「はい!?」
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「驚いたわ。まさか貴方の知り合いから名乗りを上げてくれるなんて」
「いや、俺もびっくりしてます。まさかこいつがドラム叩けたなんて知らなかったから……」
「でも、候補が見つかっただけでもありがたいわ。しかもドラムの、ね。それで、貴方の名前は――――――」
「平手飛猿って言います。どうぞよろしく頼みます」
取り敢えず放課後、メッセージアプリで明星先輩にドラムの候補が見つかった旨を伝え、指定した時間に落ち合う。場所はもちろん、誰もいなくなった第二音楽室。
明星先輩もびっくりしたみたいだ。メッセージ上でも驚きの感情がありありと伝わってきたから。
「平手くん、ね。よろしく頼むわ。じゃあ早速で悪いけど、何か叩いてくれないかしら? 聞けばジャズが好きみたいだから、その中から一曲でもいいし……」
「じゃあ、即興やらしてくださいますか? 確かにちゃんとした曲も弾けますけど、ジャズやる時はよく即興やってたので……」
即興演奏。確かに、それはジャズといえば、だ。
その場で思いついたメロディ、リズムをリアルタイムで演奏していくもの。もう既に作られたモノを演奏するのではなく、弾いてる段階で創造し、形にしていくモノだから、ちゃんと聞けるようなものにするのは非常に高い技術を要する。
しかも、それがバンド演奏となれば尚更だ。
俺もクラシックピアノやってた頃にかじっちゃいるけど、腕的にはまだ人前で演奏できるには程遠い、と思う。
「即興……、随分とハイレベルなことするのね。それが出来るなら是非とも来て欲しいけど……、聞かせてくれるかしら」
「わかりました。おい御門氏、君ちょいと即興やったことある言ってましたよね?」
「え、まぁ、そういえば」
「この際レベルは問わんから適当になんか弾いてくれない? 合わせっから」
「……わかった。じゃあ、よろしく」
そう言って、俺は奥の方にあるピアノに腰掛け、軽く音を出す。そしてそれに次いで飛猿がドラムに座る。イ長調でI、Ⅳ、Ⅰ、Ⅴ、Ⅰと基礎的な和音構成を弾き、
「イ長調でいくぞ」
と軽く伝え、
「おう」
と言う彼の言葉を聞き、旋律を奏でていく。
飛猿がジャズ好みというのもあるから、俺なりにジャズチックな音になるよう努める。
弾いてみたいフレーズが頭に浮かぶけど、技量不足だ。指が追いつかなくてそれっぽいメロディでなんとかする。
俺の即興演奏って、正直言ってまだまだこんなものだ。
でも、飛猿のドラムワークは、その何倍も上を踏み越えてきた。
多彩なフィルワーク。
情熱的、かつ前のめりなスタイル。
まるで頭の中にある音をそのまま形にできているような、そんな音だ。
そして、俺の奏でる曲調とリズムに絶妙に合わせてくる。
それにつられて俺の演奏も思わず力がこもってしまう。
こいつに合わせてやろうと躍起になってしまうのだ。
それだけ、彼の演奏能力は一線を遥かに超えている。
だから、俺は思わず。
「す、げぇ――――――!」
掠れた声を、漏らしてしまった。
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