黙約

「平太さんお久しぶり。」


彼女がにこやかに話し掛けてきた。


私はどもりながらやっとのことで、


「久しぶり・・・。」


と言葉を返した。


「今日はお早いのね。」


美紗がまた口を開く。


「あぁ。起きちまってね。」

と苦笑いで返すと美紗がすねたようにむくれた。


「どうして最近いらっしゃらなかったの?」


何が言いたいかはすぐに分かった。


しかし私は口を噤むしかできない。


「私克則さんに告白されたわ。」


私が息を飲むと、美紗が一歩近づいてきた。


私は美紗の顔が見れず、下を向くと、ちろりと白い足が少しだけ見えた。


「好きって答えたわ。」


ずくりと私の胸に何かが刺さる感じがした。


美紗はすぐに言葉を続ける。


「平太さんが好きって。」


私は勢いよく美紗の顔を見た。


今度は美紗が真っ赤になった顔を向けている。


私はその時、告白の返事を返す事が出来なかったが、朝ここで落ち合う事が私達二人の黙約となった。


皆も私達の間の変化に少しずつ気付いているようだった。





ところが、中学へ上がると私達はまた少しずつ会う事が減っていった。


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