桃色

天野 帝釈

昼下がり

ある昼下がりの事だった。


私はふらりと散歩に出たい気分になった。


ぐるりと見慣れた光景を見渡し、いつもは開けないはずの扉を開けた。


「あら、あなた出かけるのですか?」


妻の米子の声が聞こえた気がした。


聞こえないふりをして、私は返事をしなかった。


きっと散歩に行くと答えれば米子はついてきただろう。


しかし、私はそんな気分ではなかったのだ。


(もう50年にもなるか・・・。)


きれいに舗装されたコンクリートの道を歩きながら考える。


速度は昔よりもずっと遅いが、真っ平らな道が私の足をスイスイと運んでいく。


無心に歩いていると、道路がスッと50年もいや、もっと昔の砂利道に戻った気がした。


足を取られそうになり、足元を見るが、やはりそこはコンクリートのきれいな道のままだ。





急に私は砂利道の先の子供時代に遊んでいた川辺へと向かいたくなった。



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