第9話・悩みならいくらでも聞いてやる

「ともだち?」

「そうさ。誰でも好意を持った相手に危害なんか加えないだろう?」


 カラスはともだち。と、なにやら怪しげなことをノアが呟き出したので、私はうちの天使に妙なことを吹き込まないでよ。と、フィーを軽く睨んだ。


「もう。変なこと吹き込まないでよね。ノアが信じてしまったらどうするの?」

「その時は俺が責任取るよ」

「簡単に言わないでよ」

「別に簡単じゃないさ。師匠として徹底的にカラス使いとして仕込んでもいい」

「止めて下さい。お願いします」


 私が真顔で止めたせいか、フィーには苦笑された。


「冗談だよ。すぐにむきになるところ、変わってないな」

「誰のせいよ」

「俺のせいだな」


 お互いに顔を見合わせて笑い出すと、それを見ていたノアにポツリと言われた。


「おかあさまは、おとうさまといるときよりたのしそうだね」

「そ、そう?」


 義理の息子からの意外な突込みだった。フィーとは幼馴染で気を許しているせいだろうと思ったのだけど、ノアから見て別に意味があったらしい。


「おかあさまは、いつも、おとうさまにえんりょしているよ。いいたいこと、がまんしている」


 子供はよく見ているものだ。ノアは今まで何も言わなかったけれど、私たちの不自然さに気が付いていたらしい。確かに私は夫であるアントンを立て過ぎていて、自分の言いたい事の半分も言えてなかったような気がする。


「さあ、将軍が待ってる。ノア、爺さんに思い切り甘えてこい」

「うん。ありがとう、おじさん」


 心の中のモヤを自覚しながら、私は護衛や侍女達を連れて将軍の屋敷に向かうことにした。ノアは先に下りるね。と、ツリーハウスを難なく降りていった。


「フィー。色々とありがとう」

「ユーリは何か悩んでいるのか?」


 久しぶりに会った幼馴染は、私の心の変化まで読み取っていたらしい。私は心のうちを吐露したくなった。彼になら言っても問題はないだろうと思ったから。


「私、離婚を言い渡されたの」

「……!」

「どのタイミングでそれをあの子に伝えるべきか悩んでいる」

「ユーリ」


 フィーが痛ましそうな顔をしてこちらを見ていた。


「私達が離婚したら、あの子からまた母親が失われてしまう。あの子は素直でいい子なの。継母である私にとっても懐いてくれて……」


 不覚にも目蓋が熱くなってくる。久しぶりに幼馴染に会えたというのに泣き顔なんて見せたくない。涙を拭おうとした私の前に、白いハンカチが差し出された。


「悩みならいくらでも俺が聞いてやる。何か困ったことがあったらここに来いよ。しばらくここにいるから」

「うん。フィー、ありがとう」


 フィーにハンカチを借り、涙を拭った私はすぐに立ち直った。フィーは私の味方だと言ってくれたような気がして、勇気をもらったような気になったのだ。

フィーは階段を下り始めた私に、「親父さんには宜しく言っておいてくれ」と、舅への伝言を頼んできた。親父さんと呼ぶくらいだからフィーは義父とは相当親しそうだ。どんな仲なんだろう?


「分かった。じゃあ、またね」


フィーとはまた近い内に会えそうな気がして、私は足取りも軽く下で待つノアの元へと向かった。


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