犬か猫かは、選べない。
香椎 柊
第1話 ペア
大学二年生ともなるとすっかり大学には慣れ切って良い意味で講義に身が入らなくなってくる。出席点命の講義は別だが。
二年生に進級してから数週間が経過しようとしていた。
ようやく、時間割も定まり講義が本格的に始動する。本格的になってくると途端に講義をさぼりだす学生が現れ始めるのが大学だ。
誰かに代筆を頼むという行為は現代でも残っていた。友達に頼み出席を偽装する。大抵の大学生は一度ならやったことはあるだろうが、僕は無い。当然無い。
僕、
そもそもスタートラインにも立っていなかったのかもしれない。
大学入学を機に大学近辺で一人暮らしを始め、心機一転ここから新たに頑張ろうとした矢先の事である。僕は慣れない土地での家事やアルバイトに体が追い付かず体調を崩してしまったのだ。
それが入学一週間前なら何とかなったのかもしれない。僕が体調を崩したのは入学式前日。なんて運の悪さなんだろうと若干自分を恨んだ。
「僕は行くよ、友達出来なくなるし」
「ダメよ悠馬、休みなさい」
行きたい僕と止めたい母がぶつかり合う。
元気がある時ならば辛うじて母親にも勝てたかもしれないが、体調の悪さが最高潮に達していた時の僕は、一向にエンジンもかからず自分で何を言っているのかもわからないほど弱りきっていた。
そんなこともあってか入学式は欠席することになり、デビューにはもれなく失敗した。
ぼっち学生は講義一つ一つが中々に勝負だ。代筆を頼めるような友達も居なければ、楽単かどうかを知るすべもない。
ここでぼっちの生き残り術その一、盗み聞き。
講義の後ろの方は基本的に不真面目が集う。個人的な意見です。そのため、後方を選ぶ人たちは如何に楽して単位を取得しようかということばかり考えるのだ。
そうなると必然的に後ろに集った人たちで情報共有が行われる。情報が一瞬にして後方に集結することになる。そこを僕は狙った。
必修単位の講義の後方の席を、早めに登校して奪取する。そしてあたかも疲れて寝ている学生を装い寝たふりをしてこっそり情報を抜き出す。僕の目論見が完全にはまり見事情報を聞き出すことに成功した。そして今に至る。
本日の講義はどうやら試験が難しくないことで有名らしく、休憩がてら単位を取りに来る人がいるとかいないとか。
講義も丁度中盤に差し掛かる。
このあたりになるともうすでに夢の中に居る学生で溢れかえる。睡魔は連鎖するようで、一人を中心に周りの人々の座高ももはやなくなっているところを見ると察し案件である。
そんな僕も眠気が襲う。あぁ寝てしまおうかと思っていた時、悪魔の一言が講義室に響く。
「本日のテーマについて、近くの席の人とペアになって話し合ってみてください」
ん?なんだ?今何て言った?ペア、ペア?
理解が追い付いていなかった僕は次第にその言葉を理解し絶望した。
突如として降り注ぐ絶望の雨。降りかかった僕は絶賛血の涙。
こんなことなら本当に爆睡を決めて素行の悪い学生として過ごした方が良かったかもしれない。悪魔の一言のせいで眠気もどこかへ消えて行った。
一応周りを見渡す。
僕と同じくぼっち民は非常にわかりやすい。爆睡を決めるかぼっち同士で手を組むか。前者はもう今からでは手遅れで、後者を狙うしかない。
そう思った僕は気づかれないように辺りを確認する。
あぁ、終わった。
残念な事に周りはそもそも睡魔によって全滅していた。誰一人として講義にすら打ち勝てていなかったのだ。
しかしこうなってくると僕も気づかれないのでは?と思う。手遅れだと思っているのは自分だけで本当はそんなことがない?そう思ったら僕も何だか睡魔が襲って、来なかった。
「あの、私とペア組みませんか?」
「ひゃい!?」
思わず変な声が出た。
周りに聞かれていないだろうか?っていう疑問は数分前の自分が証明してくれるからきっと大丈夫。
「ごめん、驚かせて」
「い、いや。大丈夫」
「ほんとごめんね。周りが、ほら思いっきり夢の中で、起こすの悪いし」
「あぁ、確かにそうだね」
困ったように笑う彼女に、僕は一生懸命の引きつった笑顔を返す。久しぶりのコミュニケーションそれに女子との会話の二段構えに、心拍数が上がっていく。どうやって今まで会話してきたんだ僕?
僕の緊張を余所に教室内がざわざわとしだす。喧騒が僅かに僕の心拍数が上がるのを静止してくれた。
体を横に向けて彼女の方を向く。目が合った彼女はにこっと微笑み返してくれた。
「えっと、初めまして、だよね?私は
「……鷹岡悠馬です」
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