第34話 絶叫マシン

「あだなさ 乗ってみっだいなー」

テレビを見ていた妻が言った。

富士急ハイランドの「ええじゃないか」に乗った女性アナウンサーが涙声で中継しているところであった。

最高速度126Km/h 最大高76m 最大傾斜89度などと説明しているが想像できないスペックである。

そう言えば山形にも遊園地はあるのだが、絶叫どころか溜息が出る程度の施設なのである。


「オラ ほだなさ のっだぐないず」

「すびたれ だずねー」

実は、私は高所恐怖症なのである。

それに、揺れる乗り物には極めて弱い体質に出来ており、特にバスなどは5分も乗れば顔面蒼白となるのである。

まして、絶叫マシンなどと言うものに乗るのであれば、遺書をしたためる位の覚悟が必要である。

それに対し、妻も娘も加速度の変化する乗り物がめっぽう好きなようで、テレビに出てくる度に「乗りたい!」と絶叫している有様である。

したがって、近くにその様な施設が出来ないことを願っていたのであるが....


夏スキーで有名な月山の裾野を1時間ほど車を走らせると、深い渓谷にかかる吊り橋が見えてくる。

そこは絶叫マシンなど足下にも及ばない、恐怖のバンジージャンプ会場なのだ。

吊り橋の中程には飛び込み台のようなものが設置されており、無謀な人々がゴムひもに命を預け飛び込んでいるのである。

こんな施設が、平和な山形に出現したなどと考えたくもないのだが、周辺の環境や規模ともに良好なため国内でも結構有名らしい。


「絶叫マシンがだめだったら バンジージャンプすっべ」

「なっなっなにゆてんだ! あだな野蛮なごどすね!」

とにかく見に行こうと言うことになった。

会場は飛び込む人と観客で賑わっていた。

料金1回5,000円の張り紙が目にはいる。金を出してまで、こんな事をやる人が居るとは驚きである。

私なら金を積まれても断るであろう。


吊り橋の周囲には観客席があり、飛び込む人に声援をおくっている。

若い男がインストラクターの指導を受け飛び込みの準備をしていた。

カウントダウンが始まり「Go!」のかけ声....

だが、決断がつかないのかインストラクターにしがみついたままである。


「ヒロシー! 飛び込まないと結婚してやんないからねー!」

観客席は爆笑の渦になった。


結婚するには、谷底に飛び込む程の勇気が必要と言うことなのか....

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