第17話 スキップ

管理職が会議室に集められた。

社内ヘルシーウォーキング大会を開催するので全員参加せよとの事である。

少しでも体力を向上させ、突き出たお腹を何とかしなさいと言うことらしい。

東京から大阪まで書いてある双六のような地図を渡され、千歩ごとにマークを付け踏破するのだそうである。

「東京から大阪までは、毎日一万歩で約80日かかります」などと、にこやかに説明する健康管理室長のベルトが腹に食い込み、きつそうに見えるのは気のせいだろうか。

(まず、あんたのお腹を何とかしろよ!)と呟きながらスマホの歩数計をセットした。


朝、家を出て車に乗り込み30歩、会社の駐車場から自分のデスクまで200歩程度、通勤だけで歩くのは片道300歩前後である。

こんな事では一日一万歩など気の遠くなる話である。何とかしなければ....

困ったな、と思いながら事務所に入ると課長達が歩数を自慢しあっていた。

「おはよっす 部長なんぽ歩いだ?」

「どれどれ ありゃ 321歩しか 歩いでねな」

「だ~めだな~ オレなの4200歩も歩いだじゃ」

「朝がら ほだえ歩いだら くたびっで 仕事さんねぐなっべ」

負け惜しみを言ったものの、少し出始めた自分のお腹を多少は気にしているのである。

「おっ 所長来たがら聞いでみっべ」

「所長 何歩あるいだ?」

「だめなんだず 通勤でなのさっぱり歩がねんだず」

「んだずね~」

「んだがらよ 一歩で二倍に増やす方法考えだんだ」

所長は何やら怪しいことを考えたらしい。

「どだごどすんのや」

「スキップして歩ぐのよ んだど歩数が二倍に増えるんだじぇ」

「おぉ....!?」


夕方、スキップしながら駐車場へ向かう所長の姿を、従業員は不思議な顔をして見送っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る