第16話 オランダ

「オランダさ んぐがらな」突然、妻が言い出した。

「オッ オランダ!? エッ? オランダ?」

娘がイギリスに行くと言い出したときも突然だったが、どうやら母娘とも性格が似ているようだ。

しかし、なぜオランダなのだ。

「オランダて あのヨーロッパのオランダなんだが?」

「んねくてよ 長崎さあるオランダっだな」

「なーんだ ほいずハウステンボスって ゆうんだじぇ オランダなてゆうがら ビックリしたべした」


新婚旅行以来、ほとんど旅行らしいことなどしないまま30年以上経ってしまい、内心はすまないと思っていたのだが、どうやら実力行使に出てきたようである。

「予約してきたがらは」

「んだのが んだげどオレ休まんねじぇ」

「だれも あなたと んぐなて ゆてねべした」

「え~っ!?」

一人でレストランにも入ったことがないような妻が、誰と旅行に行くというのだ。

まさか?...不倫?...


「ハハハハ 心配なんだべ わたしと んぐんだよ~」と言いながらリビングに娘が入ってきた。

「なんだ おまえと んぐのが....」

「いねあいだ 自分でなんでも さんなねがらな」

「外食すっど じぇねかがっから だめだがらな」

「ちゃんと食事つくて たべらんなねがらな」

「まいにじ 風呂さ入らんなねがらな」

「一人暮らしすっど おかあさんのありがたみ わがっから」


母親と同じ口調で立て続けに言われ、女房が二人いるような気分になる。

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