第4話 症例
休日には、本屋に行くのが習慣になっている。
近くで一番大きい本屋は十文字屋である。
古めかしい名前の通り老舗の本屋だが、店内の雰囲気も明るく、季節の変化を取り入れたディスプレイなどにも凝っている。
また、新刊書だけでなく専門書も揃っており、立ち読み族には重宝している。
いつもの通り、週末に十文字屋へ出かけた。
裏の駐車場に車を止め店内へ入り、文庫本のコーナーをウロウロしていると、突然下腹部がゴロゴロしてきた。
(うっ ウンコ...!)
急いで二階へ駆け上がりトイレに飛び込み、ズボンを下げホッと一息ついた時、不思議なことに気が付いた。
(何故ここに来ると、いつも便意がするのだろうか?)
そう言えば、十文字屋には毎週のように来ているが、毎週のようにトイレに駆け込んでいる。
不思議である。
この現象には、きっと何か原因が有るに違いない。
従弟が隣町で開業医をしている。
さっそく電話をした。
「もしもし おぅ おれだっけ」
「なんだ めずらすいな なにしたのや?」
手短に事の経緯を説明した。
「なんだずぅ~ ほだなごどで電話なの よごすなず」
「んだて不思議だべ? 医学的見解ば聞ぐだくて電話したんだべず」
「ほだな診断さ 健康保険きがねがら 高いじぇ ハハハ」
「バカこげ なぁ どう思う?」
「んだなぁ しいて言えば アレルギーだな」
「アレルギー!?」
「んだ たぶん本屋に有るもの...んだなぁ... 本のインクの臭いなのが刺激になて 便意を催すようになるがもすんねな」
「うんうん」
「何回もしてっど 条件反射になて その場所にんぐだけでウンコすっだぐなっべなぁ..」
「なるほどなるほど ところでこの症例は なんて病名になるんだべ?」
「パブロフ的アレルギー性多便症候群てのはどうだ? キャハハハ」
とんでもない病名を付けられてしまったが、快便生活を維持できるのであれば、これも致し方のないことであろうと思うのである。
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