第2話 キングセ

近所に洋服屋がある。

仕立て専門の店で、父の時代から付き合っており、私も時々お世話になっている。

最近は景気が悪い上、激安店に押され注文が減ったと嘆いていたが、腕は確かと評判なので固定客で何とかやってる様である。


仕事を終え家に帰ると、10日ほど前に注文した背広の仮縫いをしたいと電話があった。

急いで行ってみると、店のオヤジは少し赤い顔で鼻歌を歌っている。

「こんばんわっす!」

「おぅ! 来たか来たか」

手招きされて店に入り、さっそく鏡の前で仮縫いされたズボンを穿いてみた。

「どうだ? サイズあってっかな?」

「んだな... ウエストは具合いいみだいだげんと 左足すこす太いみだいだな...」

気になるほどでもないが、右に比べ左足がゆったりしているように感じる。

寸法を間違ったのだろうか....

「なして左足だけ太ぐなたんだ?」

「ガハハハ 男はよ 足3本あっがら そのぶん左側ば すこす太ぐさんなねのよ」

「おーぉ んだっけのが!」

「こればよ 業界用語でキングセてゆうんだ」

「キングセ!?」

キングセとは金癖と書くのだろうか...


「だいたい80%以上の男は 左向ぎなんだ」

「ふーん」

「部長のも左向ぎだべ? んだがら左足ば すこす太く作っておがんなねのよ」

「あ あぁ...」

「んだげんと 部長のは ほだい太ぐさんたて.... キングセもいらねみだいだな ガハハハ」


右や左に寄せる程の大きさではないと思っていたが、業界からも見放されるとは...トホホ

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