2月は「Snow Moon.」

渚とは1か月以上会っていない。特に変わりは無かったようで、ソレは「何かあったらメールして」と言う約束を守っていただけだろう。本当に渚のメール頻度は高低差が激しい。直電もあまりしないから、声すら聴いていない1か月。

 2月14日と言えば、冬の寒さが最も厳しい頃だ。あと1か月、あと1か月と、この街に住む人々は寒さに耐えるのだ。3月になれば多少は寒さも緩むから・・・

駅の改札前は冷え過ぎる。僕は待ち合わせ時間の30分前に到着していた。渚を待たせるくらいなら、15分や30分ぐらい、寒さに震えていた方がいい。流石に30分前では渚の気配もない。僕は改札前で少し考えてから渚にメールしておくことにした。


「ベックスにいる」とだけ。


当然返信は無い。

そして渚は待ち合わせ時間の10分前にベックスに入ってきた。

「珍しーねー。洋ちゃんがベックスにいるなんて」

「待たせたくないからって、早く着き過ぎた」

「ごめんね?」

「謝ることじゃないでしょ。そもそもまだ10分前だ」

ふと渚の顔を見ると、具合が悪そうだ。元々色が白いのだが、今日はもう「真っ白」に見える。コートだけ脱いで、マフラーは巻いたままだ。そんなに寒いのだろうか?

「具合悪いのか?」

「うん・・・生理でしんどい」

「そうか、とにかく何か温かいものを飲んでくれ」

「コーンスープ」

 この娘、レジカウンターで何も買わずに席まで来やがった。僕は渚を席に座らせたまま、コンポタを買いにレジカウンターまで歩いた。姫様は我がままなのだ。

コンポタの入ったカップを両手で包むように、渚は少しずつ飲む。熱々過ぎて舌を焼くらしい。そんな仕草まで可愛いから困る。

今日はどうしようか?多分、いつもの大きなバッグの中には某ホテル謹製のガトーショコラが入っているに違いない。しかし、ベックスで渡されるのは「色気が無い」ので移動するべきだ。

渚が生理で具合が悪いのに、あちこち連れ回すのも嫌だ。

渚は一生懸命、コンポタを飲んでいる・・・


「飲んだら行こうか」

「え?どこに?」

「いつもの部屋」

「ちょっとー、私生理だってば」

「だからさ」

「ん?」

「レンタルビデオでも観てのんびりしよう」

「わかった」


渚はちょっと嬉しそうな顔をした。


 ホテルに向かう道の途中にTUTAYAがある。確か数軒離れて弁当屋もある。今日みたいに渚がハンデを負ってる日は、面倒なことはしない方がいい。ほかほか弁当で十分だ。

レンタルDVDを借りて、弁当を買えばホテルに直行出来る。いや、最近はいつもホテルに直行ばかりだが、渚が望むのだから仕方がない。

 渚が立ち上がったタイミングで、僕は渚のバッグを奪った。完全に「置き引き」の素早さである。このバッグが結構重いと言うことは知っているので、代わりに僕が持つことにした。僕は渚とのデートの日はほぼ手ぶらだ。いや、普段から手ぶらと言うことばかりだ。たまにカメラバッグを持つことがあり、荷物が増えそうな日はリュックを背負う。ソレが僕の生き方だ。

 渚は、僕がバッグを持ってもお礼ひとつ言わない。流石は姫様である。

 渚はTUTAYAで「ニューヨークのなんとか」と言うラブロマンスを借りた。僕は特に観たい映画は無かったが、そう言えば観ていないと思い出した、ニューヨーク市警のはみ出し者刑事が、今度は飛行機を爆破する映画を借りることにした。既に4作目が出ていたがスルーした。

あんな男と結婚する方がどうかしている。


 平日の昼である。当然のようにラブホは空いていた。バレンタインデーなので、夕方以降は満室になると思うが、そう言うカップルはチョコよりもチィンコだろう。僕たちのような「聖なるバレンタイン」を過ごす「善き人」は少ない。生理さえなければ・・・

ホテルの部屋に入ると、いつもの「キスをしなさい」と言う命令も無く、渚はベッドに倒れ込んだ。余程しんどいらしい。僕は渚をバスルームに追い立てた。


「しっかり温まってこい」(笑)

「覗かないでよ?」

「そんな趣味はねーよ。あとでちょっと見せてくれればいい」

「変態っ!」

 渚は足取り軽くバスルームに消えて行った。冷えた身体を温めることにわくわくしていたのだろう。僕が本物の「野暮天」だった場合、今頃はどこかの店で向かい合って座っていただろう。僕は渚には優しいのだ。

 買ってきた弁当を全部並べる。いつものデートなら夜の8時くらいまでは一緒にいるので、昼と夜の食事も一緒だった。とりあえず3個買った弁当と、夕飯の時間に足りなければルームサービスを頼めばいい。それに、今日は早めに渚を帰す予定にした。


「出たよー。洋ちゃんも入りな」


いつものように渚は僕にもシャワーを促す。特に今日は抱くつもりは無いのだが、一応は礼儀と言うことで浴びることにした。5分で済ませたけど。

渚はすっかり血色も良くなって元気になっていた。お湯で甦るとは、カップ麺みたいな娘っ子だ。僕がバスルームから出ると、渚は電子レンジで弁当を温め始めた。唐揚げ弁当と鯖の竜田揚げ弁当。もう一つはキープされてるハンバーグ弁当。

「唐揚げで良かった?」

「何でもいいよ、好きな弁当ばかりだし」

「私はぁ?私はぁ?」

黙れ小悪魔。

「渚も好き」

あ、デレた。


あーだこーだと駄弁りながらお昼ご飯。早飯が得意な僕も、渚に釣られるようにのんびりと食べていた。

「あ、そうだ。ねーねー、オートバイの話だけどさ」

「ん?いつにする?って言うかどこにあるんだそのバイク」

「○○市のはずれの方」

「○○市って、山の中じゃねーか」

「そこのレンタル倉庫が安いからって、解体屋さんに運んでもらったって言ってたよ」

「この真冬に山の中か」

「駄目?」

「んー、いいよ。渚も来るんだろ?」

「勿論行く。洋ちゃんが浮気しないように見張りに行く」

「いやまぁ・・・バイクのオーナーが可愛ければ、倉庫内で」

脚を蹴られた。

「スケベっ!あ、可愛い子だよ」

「楽しみだな」

また脚を蹴られた。

「いつがいい?」

「俺の休みの日だから木曜日だな。あとは日曜日とかなら空けられるけど」

「そっかー、じゃ再来週の木曜日にしとく?」

「そのバイクのオーナーはいつでもいいのか?」

「あー、あの子は家事手伝いだから」

「いいご身分だな、おい」

「またすぐにお水になるって言ってた」

「渚の友達はお水ばかりだな」

「えへへ」

「誉めてないぞ」

「何となく友達になるとお水なのよねぇ・・・」

「分かった。再来週の木曜日な。○○市だと、電車で行けばいいのか?」

「駅前で待ち合わせしよ。交通費ぐらいは出させるから」

「まいっか」


 ご飯を食べて30分ほどはイチャイチャしていた。すぐに横になると消化に悪い。そして渚の「お風呂効果」が切れかけてきたのでベッドに入った。

ベッドに横寝すると、テレビが目の前にある。先に渚が借りた「ニューヨークの缶蹴り」映画を観ることにした。僕には確信があった。


この子は観てるうちに眠ると・・・


横寝して、後ろから渚を軽く抱くような格好になった。「スプーンポジション」と言うヤツだ。渚が位置を調整したあと、そっと抱いた。

「あ、腰にタオル巻いとけ」

「はい?」

「腰を冷やさないようにタオルを巻けって」

「あ、うん」

「腕枕してるから、このまま映画を観ればいいよ」

「洋ちゃんは観ないの?」

「観るよ。でも2回目だ」

「いい映画だった?」

「ラストシーンが泣ける映画だよ」

「そなの?」

「最後、主人公の男が・・・」

「うん」

「溶鉱炉に沈みながら親指をこう・・・グっと立てるんだ」

「ソレ違う映画だー」


 ニューヨークの缶蹴りが成功する前に姫様は寝落ちした。急に動かなくなったので分かった。寝落ちでなければ心肺停止だろうってぐらい寝相がいい子だ。

僕も寝不足気味だったが、この映画のラストシーンを忘れていたので、確認しておきたかった。勿論、寝落ちした姫様に教えてあげるためだ。

映画が終わっても起きる気配が無い。安心しきっておられる。今ならおっぱいを触ってもバレないだろう。渚の下腹部に置いた左手をおっぱいに被せた。


「そこ、違う」

あ、起きてた。

「あー、よく寝た。映画はどうだった?」

「やっぱ感動だよ。死んだ旦那さんいただろ?」

「うん、なんか悲しい話だよね」

「それがさ、奥さんは強かったって話よ」

「どうなったの?」

「最後は海辺で並んで横になっててさ」

「ニューヨークって海、あったっけ?」

「で、旦那さんが身体を起こして奥さんを見るんだ」

「で?それで?」

「奥さんのセリフがさ、凄いのよ」

「なんて言うの?」

「キモチわるい・・・」

「ソレ、アスカぁー」

「最後は旦那さんの死を受け入れて、幽霊になった旦那さんとキスをするんだ」

「私、なんでラブロマンスを見たんだろう・・・」

「俺と浪漫飛行したいからじゃない?」

「ところでさ?」

「なんでしょう?」

「洋ちゃんの手がずっと下腹部にあった」

「楽だろ、手を当ててるだけで」

「ワル・・・」


熱い風評被害だ。僕は「悪い男」ではない。


「渚だけ特別なんだよ」

渚はぐるっと身体を回して僕を見上げた。

「悪い人だ」

仕方ないので悪者になろう。そうだ、この腹にパンチを食らわせて・・・

思い直しておっぱいを触った。

「そんなにおっぱいがいいの?」

「あー、知らないんだ。おっぱいは鎮静剤になるし安心出来るんだよ」

「ふーん・・・」

「で、俺はノーブラのおっぱいをTシャツとか布ごしに触るのが好きなんだ」

「直接では無くて?」

「このふよふよした感触がいいんだ」

「向き合ってると触りにくいでしょ」

「まぁな」

「じゃ、後ろから触っていいよ」


渚がまた背を向けたので、僕の左手は渚の下腹部に。


「またぁ。本当にワルだよね」

「おっぱいも触るけど?」

 僕はしばらくの間、左手を下腹部とおっぱいの往復に費やした。渚のおっぱいは張りのあるDカップなので、揉み心地が最高なのだ。いや、揉まないけど。さわさわと撫でる程度が一番心地いのだ。


しばらくして、また渚がこっちを向いた。

「ねぇ、お口でしてあげようか?」

「いや、そう言うのは気にしないでいいから」

「でも、洋ちゃんは溜まってるでしょ?」

 そりゃ、渚が生理だとは予想していなかったので5日分は溜まっている。しかし、そんな要求をする気はない。僕は渚の「全て」が好きなのだから、腕枕で眠り込んでもらっただけで「ご褒美」なのだ。

「大丈夫だよ」

「駄目。洋ちゃん仰向け」

あ、ひっくり返された・・・

「下は駄目だけどおっぱいはいいよ」

ここまで言われて「いや、僕は淡白だから」と断れる男がいるだろうか?いやいない(反語)


バスローブの前をはだけて、僕は仰向けになった。

「見る?」

渚はおっぱいを見せてくれるらしい。

「顔だけで十分なんで・・・」

「やだもう、顔を見られてるなんて思ったら恥ずかしいじゃないっ!」

「もう何度も見たし」


 そのまま逝かされて、今度はティッシュペーパーに吐き出された。まぁ具合が悪いしな。別に「飲んでもらう」ことにこだわりはないし。口内で発射出来るだけで感動ものなのだ。なんでこんな美しい人がフェラを憶えたのか疑問なほどだ。

「あとでまたする?」

「元気になればって感じで」

「元気になるよ、まだ溜まってそうだし」


 ルームサービスでたこ焼きとフライドポテトを頼んだ。弁当を食べるほどでは無い空腹感を満たすためだ。テーブルについて二人でおやつタイム。

「あ、映画」

「そうそう、俺が借りたヤツ、観る」

「腕枕は?」

「あ、します」


姫様はわがまま過ぎる。


 結局、食べなかったハンバーグ弁当は僕が持ち帰ることになった。いつもより2時間ほど早い時間に、渚を駅まで送った。

再来週にまた会える。


「メールするね、メールしてね」の別れの言葉は変わることが無い。

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