第4話 ジョンストン環礁沖の血戦
ジョンストン環礁、それは「アクシズ戦争」─アジア・アクシズと太平洋安全保障理事会との戦争─時にメビウスが侵攻し始め、第5次ジョンストン環礁攻防戦においてついに陥落したハワイの前方拠点である。
つまり、ハワイはこのジョンストン環礁無くして働かないと言うことになる。そして、そのジョンストン環礁は現在メビウスの手にある。
しかも、ジョンストン環礁は全域が砲台と軍港施設、さらにミサイル発射台や隠蔽式の機銃など、所狭しとばかりに防衛施設が並んでいる。
これに突っ込むのは、流石の愁といえど気が引けるものだった。
「桜蘭、これに単艦突撃しろ、といったら、するかい?」
「正直に言って、愁艦長の命令だとしてもできればしたくないです」
察しが良いな、と言って桜蘭に笑いかける。
「と、いうことは」
「単艦でこれを撃破する。その後に上陸するつもりだ。第一帝国艦隊の艦長を集めれば、それなりの兵力にはなる」
上陸してこれを落とさなければ、とてもではないがこれを無力化するのは不可能だ。それならば、上陸するしかない。
「第一帝国艦隊の戦力は貴重ですが…」
「別に全部じゃない。それに、第一帝国艦隊の内実にもっとも詳しい奴と、僕は仲が良くてね…」
クス、と笑いかけ、第一帝国艦隊に連絡を取る。
「こちら第一主力艦隊第三分隊、司令官に話がある」
向こうから来たのは、笑い声。
「まったく、ようしてくれるもんだ」
「こちらの言いたいことは分かるよね」
「どうせ単艦突撃してジョンストン環礁を撃滅するから、その後の上陸部隊を集めろ、というつもりだろう」
こちらの言いたいことをすぐに了解してくれる良い友人とは、まったく良いものだ。
しかも、それが司令官となればなおさらだ。
「しかし、ジョンストン環礁の防衛状態は半端じゃない。一人でやれるか?」
「やれる、というかそれくらいはわかると思うけど」
「少なくとも、愁の実力を完璧に把握していると思えるほど僕は思い上がってない」
知らん、という暗喩。
「まあ、できるというならできるんだろう、君は」
「それはどうも。それで、そちらが抽出できる上陸部隊はどれくらいかな?」
「どれくらい守備隊がほしい? そちらの要求による」
ああ、読み違えた。
気心知れているとはいえ、流石に読み違えることはあるのだろう。
「いや、そちらは守備隊ではなく、僕と一緒に周りの拠点を破壊する役だ。守備隊は第二分隊に任せる」
「それなら、第二分隊に攻略を…、なるほど、第二分隊の司令官はそちらの信頼に足らないということか」
「いや、能力十分、資質十分だ。ただ、個人的な因縁があってね…、できれば、そちらをこき使いたくはないし、なによりもへますればこちらの破壊が不十分で死者を出しかねない」
「それくらいはいいのではないか?」
「ごあいにくさま、第二分隊の司令官はそうは考えないだろうと想像している。無駄な損害を出しやがって、ということだろうね」
はあ、とため息一つ。
「堅物か?」
「いや、柔軟な思考を持ついい司令官だ。指揮能力、個艦の戦闘能力を引き出す能力などは申し分ない」
「なら…」
「ただし、無駄に兵を損なわないことを前提としてね」
そりゃそうだ、という反応。
「少し勘違いしているようだね」
「愁は、そのどこがいけないと?」
「彼女は竜崎家の出身で、その父は現在の教育艦隊司令官、エミリー=ヴァンフリート、と言えばいいかい?」
納得した声が聞こえた。
「なるほど、兵を無駄に損なうの意味が違う、ということか」
「彼女の唯一の欠点、それは味方を無理してでも救おうとすること。司令官としては、あまりにも致命的すぎる欠点だね」
そして、僕と折り合いが悪い理由の一つ。
「…、それでも、優秀なんだろ」
「個人の資質だね、ホント。無駄を切り捨て勝利を得る才能は皆無だけど、無駄を有益にする才能は凄まじい。たとえ火中の栗を拾うとしても、ただ栗を拾うだけじゃなくて、それ以上の戦果を得ることができる」
多分、彼女は天才だ。
否、秀才だ。天才は、僕が殺した。
「その女司令官の名前は?」
「竜崎美麻(りゅうざき-みま)大佐。僕と同格で、歳も同じ。出身柄はわからないけど、将来が期待できるよ、本当に。彼女は秀才だ」
「竜崎、か」
複雑な心境なのか、やや声に含みがある。
「どうかしたの?」
「竜崎家は、貴族か、それとも騎士なのか?」
「どういう意味?」
「騎士は国を守るもので、その君主には従順だが、貴族は王に対して反乱できるほどの力を持つ。竜崎家は、政府を滅ぼすか、それとも助けるか?」
何を言っているんだ、と言いたくなった。
それには、当然の答えがあるではないか。
「軍事は政治の延長。軍が政治も行う国家は、そのまま独裁強権国家だと思う。あくまでも、竜崎家は「貴族としての責務を果たす」騎士だと思うよ」
「…、昔、畑を耕す貴族がいた。その貴族は、所属する国が危急となると、その国の国民に独裁官に任命された。彼は15日で、侵入してきた外敵を打ち払い、16日目にその権利を返上して、畑仕事に戻った。
古代ローマのとある話だ。他にも、一族郎党玉砕したファビウス家などもある。
僕がないを言いたいかというと、つまり貴族の責務は国の先頭に立ち、被害を恐れることなく、眼の前の的に立ち向かうということを意味するということだ」
それは当然だろう。
貴族の責務とは、すなわち国をあるべき方向へと導くことなのだから。
そう考えたときに、違和感に気づく。
あるべき方向?
それは、敵を打ち払うことだけじゃない。
国内の敵もまた、打ち払う。
これは、つまり。
「貴族の責務を果たす、とはつまり、国をあるべき方向へ誘導すること。いま、愁よ、君の国は、果たして正しい方向へ進んでいるのか?」
「さあね」
いやに竹を割ったような単純な答えを返された第一帝国艦隊司令官─鳴瀬未華少将は、どうして、と無意識に口に出した。
「どうして、か」
「あ、いや、別にそういうわけじゃ…」
「無意識に言ったことは、無意識に思っていること。だから、真面目に答えておきたい。すくなくとも、未華が本心から知りたいことなんだから。
僕は、その政府が正しい、間違っていると決めるのが、誰かわからない。その国の国民か、後世の歴史家か? ひょっとしたら、正しい選択なんて一つもないのかもしれない。僕はただ、それが言いたかっただけだ。
それで、どれくらい抽出できる?」
お、本題を忘れるところだった、と未華。
「24人でどうだ?」
「了解」
それで、通信は終わりだった。
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