第4話 ジョンストン環礁沖の血戦
愁は、通信封止を破る決断をした。
敵艦隊主力は間違いなく西方に展開する味方艦隊主力へと攻撃を仕掛けるだろう。しかし、このことは艦隊司令部も予想しているはずだ。
となれば、最速で味方艦隊は合流するはず。
つまり、北方に展開する多国籍艦隊と西方に展開する太平洋統合政府艦隊主力は直線的に合流する。斜め方向に進行方向を変更した艦隊は、ジョンストン環礁から北西方向に当たる方向へ移動することだろう。
その場合、決戦場はジョンストン環礁から北西200キロ地点となる。
合流さえできれば、戦力の二乗と質を掛け合わせたとしてもメビウス艦隊に対して有利となる。
ただし、合流する前に各個撃破される可能性もなくはない。速度に勝るメビウス艦隊が、こちらの動きを完全に把握しているならば、合流地点を先読みして先回りできるかもしれない。
だが、これに関して言えばもはやほぼ運だ。
ならば、我々のするべきことは唯一つ。
「第三分隊及び東洋政府第一帝国艦隊に連絡、“我レ、ジョンストン環礁ヲ攻撃ス”」
これだけで十分だ。
ジョンストン環礁を攻略し、辺りにある艦隊駐留拠点の過半を撃滅すれば、メビウス艦隊はその戦力を留め置く場所を失い、どうあがいても彼らは撤退─それも中部太平洋地域の唯一の拠点であるジョンストン環礁を敗れば、そのまま中部太平洋地域の解放を意味する。彼らは北太平洋か南太平洋へと─撤退せざるを得ない。
しかし、これは時間との勝負となる。
味方艦隊主力が勝ったとしても負けたとしても、残存艦隊がジョンストン環礁へと引き返してくるのは目に見えている。つまり、タイムリミットは海戦終了まで、となる。
概算すれば、約8時間から12時間。
これだけの時間があれば、なんとか間に合うと見た。
「第一主力艦隊より緊急電、“敵艦隊主力見ユ”」
そして、第一主力艦隊から情報が飛んだ。
「馬鹿な!」
そんな訳がなかった。
敵艦隊が事前に機動していたとしても、偵察部隊である国防軍艦隊をすり抜け、さらに先鋒艦隊をすり抜け、時計回りに主力を叩くとしても、どう考えてもあと3時間はかかる。
「艦長、どうします」
桜蘭が、そう愁に呼びかける。
頭を再起動した彼は、すぐに命令した。
「命令変わらず、我々は現在接敵中の敵艦隊を強行突破して、ジョンストン環礁へと向かう」
こうして、静寂に包まれていた戦場は再び動き出した。
「敵艦隊よりミサイル攻撃なし、撤退していきます!」
「追撃、追撃、追撃!」
完全に読み違えた。
しかし、今回はラッキーな読み違いだった。
「まさか、敵艦隊がミサイルを使い果たしているとは…」
にやり、と愁は笑う。
敵艦隊を過大評価しすぎていたようだ。最悪の場合、麾下の艦隊の半数を失うと想定していたが、敵艦隊はありったけのミサイルを使い果たし後退中だった。
ミサイルがない敵艦隊は、ただの的だ。
「第二波ミサイル、敵艦隊に命中、被害甚大! 繰り返す、与えた被害甚大! 敵艦隊は潰走しつつあり!!」
敵艦隊は、もはや艦隊の体をなしていなかった。
大型艦の殆どは撃沈され、残りの小型艦は蜘蛛の子を散らすかのように撤退しつつある。
戦果拡大と偵察艦の殲滅のために、一艦一艦を確実に仕留めていく。
「愉快だ! 実に愉快だ!」
女川艦長が笑いながら、ミサイルを直接誘導して敵艦を爆砕していく。
ミサイルを温存しながら、敵艦を確実に撃沈するというジレンマを見事に解決している。
この第三分隊が「魔境」とすら言われる、その理由。
それは、その必中のミサイルと砲弾たちである。
すべてのミサイルと砲弾は、その半数以上が命中する。特にミサイルはその九割が命中コースとなる。
さらに、女川艦長に至ってはミサイルの誘導の腕だけでいえば愁にすら匹敵する。機銃の降り注ぐ戦場の中を丁寧に誘導して、高角砲弾や機銃弾をすべて回避する必中の槍…。
これは、もはや敵にとってはただの恐怖だろう。
「敵艦二隻爆沈、続いて一隻大破、戦列を離脱していきます!」
次々に敵艦は爆発していく。
敵艦はもはや戦列をなしていないから、戦列離脱には如何ほどの価値もないが、敵艦隊はそのほぼすべてが爆沈、もしくは航行不能へと追い込まれ、健在なのは1隻もない。
「そろそろ十分か…」
これ以上ミサイルを無駄遣いするのも気が引ける。
何よりも、そこまでミサイルに余裕があるわけではない。敵さんのようにミサイルを1万発ぶっ放せる余裕はどこにもないのだ。
その時、戦場に轟音が鳴り響いた。
「轟沈! 轟沈! 轟沈! 敵艦一隻轟沈!」
これで、敵艦の中で航行可能な艦は一隻もいなくなった。ならば、これ以上攻撃する必要はない。
「攻撃止め、これよりジョンストン環礁へ突入する」
そう宣言する。
そして、第三分隊は跡形もない敵艦隊の残骸を眺めながら、ジョンストン環礁へと舵を切った。
その頃、第二分隊もまた、戦場から転進していた。
竜崎美麻司令官率いる第二分隊は、第6艦隊を追撃する敵艦隊と交戦しつつさらに増援と交戦する形となったが、それすらも歯牙にかけぬ強さで強引に抜いたのだった。
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