第141話 守るために・・・
アムドシアスが居たまでならいいものを……地上に出てくるなんて予想外すぎるぞ。
魔法陣からの攻撃から逃げるために、上空へ飛び一気に距離を開ける。
一体何をするつもりなんだ?
「無駄なことを」
アムドシアスは、顔だけを俺に向けると魔法陣も照準を合わせる。
シールドを展開して、どんな攻撃なのかが分からない。シールドを複数展開するが、できることなら逃げたい。
「戦うとしてもせめて、後五時間ぐらい休憩させてくれよな」
魔法陣からは、青白い球体が発射される。
しかし、その軌道は俺がいる所よりもかなり手前の上空へ放たれる。
それを目で追っていくと、その光が弾け周囲に閃光が広がる。その光と同時に頭上からは夥しい量の雷撃が降り注いでいた。
一撃二撃とか、生易しいものではない。
何百にもよる無数の雷撃が延々と地上に向けて降り注ぐ。
展開しているシールドはその雷撃を防ぐものの、草原だった地表は面影がなくなり荒野へと姿を変えていく。
なんてやつだ……さっきのは攻撃をしたのじゃなくて魔法陣そのものを空に打ち上げていたのか?
頭上から、降り注ぐ雷撃の中心にさっきの魔法陣がはっきりと見えている。
「これが邪魔なのか?」
雷撃を気にし過ぎていたため後ろから聞こえる声に、反応が遅れていた。
背後にいたアムドシアスは、その大きな爪で俺を攻撃しようと振り上げている。
雷撃とその攻撃によって三枚のシールドは貫かれる。
「まじかよ」
ギリギリの所で攻撃をかわせたが、あのままだと間違いなく最後のシールドが破られていた。
距離を取ることが出来たが、この距離を一瞬で近づかれるのかよ。
一枚でもシールドがなければ雷撃によって攻撃される。
逃げる俺に対して、この中を掻い潜ることもなく、雷撃が避けると言った様子もない。すなわちアムドシアスにとっては絶好の領域。
上空からの雷撃はアイツに効かないということか。
「これなら……ふざけるなよ!?」
近づいてくるアムドシアスに対して、攻撃を繰り出そうにも風球を出現させるが雷撃によって、斬撃を発動させることもなく消滅する。
バーストロンドを放つも、その爆風に対しても動じる様子もなくこちらへ向かってくる。
「風球を作り出しても、雷撃によって防がれるのか」
雷撃から距離をとっても、魔法陣は俺の上を維持している。
アレが無いだけでも少しはマシになるのか?
攻撃するにしても、常時攻撃をされているようなものだから、シールドは必要になるもののそれを壊そうとアムドシアスは俺に向かってきている。
「滅べ」
「またか」
クリムゾンブレイドを具現化し、アムドシアスの攻撃を剣で受け止めるが、その反動によって後ろへ大きく吹き飛ばされる。
なんて力をしてやがる。吹き飛ばされた俺を、アムドシアスは雷撃が降り注ぐ中追撃に向けてやってくる。
「これなら、どうだ!」
左手に氷の大剣を作り出し、こちらから攻撃を仕掛けるも軽々と剣を掴まれて止められる。
そのまま力を込める様子もなく容易く大剣は握り潰される。
至近距離での攻撃も、あのドラゴンの腕によってあまり効果がない。
上空にある魔法陣も、普通の魔法ならいつかは効力を無くす。
それが何時になるか分からない……そもそも、魔法陣を使った魔法を見るのはこれが始めてだ。
「これが最強の強者なのかよ……一体何が有効なんだ?」
風球のような魔法を使えば、あの雷撃で無効化されるし、近接だとしてもあの腕で防がれる。
だとするのなら……ドゥームブレイドにかけるしか無いのか?
ラストダンジョンで、バーストロンドを散々撃った挙げ句にエクスプロードも使用した。
索敵による不調もあって、今の魔力量で何分維持できる?
そもそも、あんな化け物に対して有効なのか?
「今度は、何をするつもりだ?」
アムドシアスは右手を上げている。
上にあるのは魔法陣。そこに魔力を送っているというのか?
これが維持されるのなら、攻撃できない現状が続くだけだ。
「先に壊すのは、あの魔法陣か!」
俺が近づけば、離れていくものの俺の速度よりか魔法陣の動きがはるかに遅い。
上手くいくかわからないが、今となってはドゥームブレイドにかけるしか無い。
シールドを重ね、雷撃が降り注ぐ中、魔法陣に向かって上昇していく。
「愚かな」
後数十メートルという所で、突然魔法陣は消え失せていた。
上昇しすぎて消えたというのか?
「何をやったのかわからないが、これで魔法が使えるだろ」
無数の風球を作り出し、アムドシアスに向けて突進していく。
近接から見を守るために右手にクリムゾンブレイドを展開して風球を放つ。
「またしても、愚かだな」
アムドシアスに放った風球によって無数の傷をつけていた。かなりの耐性があるのか、あの斬撃でも大きな傷をつけることはない。
無数に浴びせられる攻撃、微かに傷だけどいダメージは蓄積しているはず。そんな状況だというのに、アイツは全ての攻撃を防ぐこともなく体で受け止めていた。痛みというものを感じないのか眉を動かすこともなく、その視線は俺だけを捉えていた。
弱い攻撃だったとしても、この攻撃が効くというのならひたすら斬り刻むまでだ。
「これならどうだ!」
左手に特大の風球を作り出し、投げつけようとした瞬間。
青い閃光が一瞬だけ見えた気がした。
アムドシアスは目を細め、右の口角を上げて笑っている。
「ぐああぁぁぁ」
左腕に強烈な痛みが体中を駆け巡っていた。
何でこんな事になったのか分からなかった。
シールドが貫かれることもなく攻撃できるのか?
「実に愚かだ。さあ……滅べ」
クリムゾンブレイドは黒い瘴気に包まれ、漆黒の剣を具現化する。
ここで気を失えば、何もかもが終わる。
ミーアを助けることも、パメラのメアリだけでなく、ここに居る俺の家族も。
これまでに出会った人、全てが失われる。
「何が滅べだ! お前が、消えて無くなれ!」
展開していたシールドはドゥームブレイドの出現によって完全に砕かれ、そのままアムドシアスに突進していく。
右手を構え、何かを打ち出すものの、その攻撃は突き出しているドゥームブレイドによって切り裂かれていく。
「!?」
初めて驚きの顔を見せるが、その体を漆黒の剣が貫いていた。
そのまま右へ振り払い、ただがむしゃらに何度も斬り刻む。
ドゥームブレイドの前では、掴もうとするあの腕も容易く斬り飛ばす。ドゥームブレイドによる斬撃を防ぐことは出来ない。
「はぁはぁ。くっ、終わりだ!」
最後の一振りで、縦に真っ二つに両断する。
塵化が始まり殆どの魔力を使い果た俺は、その最後の姿を見ることもなくゆっくりと降下していく。
収納から、ポーションを取り出して、口を使って蓋を開ける。大した効果はないが失った手首にかけていく。本来飲むものだが、それで流れていく血が止まるのならと思って何個も使用する。俺の周囲には、何本もの空き瓶が転がる。
そんな事をしていると、俺の隣には大きな大剣が突き刺さっていた。
意識は白い世界へと引き込まれ、また何かが語りかけている。
『どうか、お願いします』
またか……。
『全ての武器を集めたのなら、ラカトリアにあるダンジョンへ向かいなさい』
アムドシアスと戦うのなら、確かに最後だと思うが……あと一本は集まっていないんだよ。
この思念のようなものは設定のままだということか?
光が収まり、荒れ果てた地面に収納から色々と取り出して、傷の手当をしていく。
縛ることが出来ないので、布を当てていることぐらいしか出来ない。
ポーションにも限度というものがあるのか、血はある程度は止まったものの、完全には止まらない。
残っていたポーションを飲み干し、突き刺さった大剣を抜き取る。
そのままゆっくりと上昇していく。
ポーションのおかげなのか、少し休憩できたからなのか飛ぶぐらいなら問題は無さそうだった。
「ここからだと、ローバンに戻るよりも……バセルトンがまだ近いか」
精霊剣レーヴァテイン。
どう考えてもゲーム開発者に突っ込みたい代物だ。真紅に染まった剣身と、巨大な両刃の剣。
この名前は、数々のゲームの中に登場するが、魔剣だの何だのというものが多い。聖剣と言ったものではないし、それを何で……精霊剣にしたんだよ。
「ネーミングはともかく、このデカさならハルトにとって丁度いいだろうな」
ズキズキとした痛みに耐えつつ、急いでバセルトン公爵家を目指す。
アニメとかだと、こういう傷口を焼いて対処するんだろうけど……それをやっているぐらいなら、残っている魔力で安全な所まで飛んだほうがまだマシだ。
途切れようとする意識に逆らい、できるだけ早く行くためにスピードを上げていく。
辿り着きさえすれば、あとは向こうで勝手にしてくれるだろう。
今までもそうだったし……。
* * *
「今のは何だ!?」
レーヴァテインが石畳を貫くと轟音が周囲に響き渡る。
バセルトン公爵家の庭に到着するアレスは、周囲は地面を抉りを小さなクレーターの中心にかがみ込んでいた。そんなアレスに対して、兵士たちが取り囲む。
持っている大剣に、誰もが剣を抜いて構えていたが……アレスはバセルトンに到着したことで、意識を閉ざしてしまう。
「貴様、ここを何処か分かっているのか!」
兵士が何度声をかけようとも、一向に動く気配のないアレスに対して、兵士の一人がアレスを足蹴りすると、そのまま倒れ込む。
剣から手を離すアレスに、兵士たちは剣を奪い取り再び足を使って仰向けにする。
「何をやっている!」
音を聞きつけて、街から戻ってきたヘルディが兵士たちの所へやってくる。
「怪しい者が、突然空から降ってきたのです」
「空から? 道を開けろ」
このバセルトンに、空からやってくる者は一人だけ知っていた。
止めに入ろうとする兵士たちを、押しのけてヘルディは倒れているアレスの姿を目の当たりにする。
左腕に無造作に巻かれた赤い布。
辛うじて息だけをしているその姿を前に、血の気が一気に引いていくのを感じていた。
「アレス殿?」
ヘルディは慌ててアレスに近づき、胸に耳を当てる。
弱々しく伝わってくる鼓動を感じ取り、地面を殴りつけ右へ左へと兵士を睨みつける。
その怒りは、ここに居るすべての兵士に向けられていた。
「何をしている! アレス殿を直ちに屋敷の中へ案内しろ! 手荒な真似は絶対にするな、私はこれから神殿へ向かう。父上には、アレス・ローバン殿がここに来ていることを伝えろ!」
ヘルディは、神殿へと走り出し兵士たちは全員青い顔をしていた。
バセルトンの英雄であるアレス・ローバン。その名前は知っていたが、その容姿までは知らなかった。
何度もここに来ていたアレスだったが、窓から出入りをしていたことで、兵士の殆どがアレスを知らなかったのだ。
その彼に足蹴りをし、怪我をしていたにも関わらず何もしていなかった。そのことに、自分たちが今後どうなるかを心配していた。
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