第19話 何で俺がこんな事を・・・
翌日も一人でダンジョンへ向かった。
昨日のこともあってか、ダンジョンの入口ではパーティーを組んでいた者たちが、それぞれ話し合いをしている。
人数を集めたり、話がまとまったパーティーは、ダンジョンではなく訓練場へと向かって行った。
それでも、ダンジョンへ向かう生徒もいるのだがかなり少ない。あれだけの戦闘があった次の日だ当然だと思う。
自分を見つめ直すのに、初日の体験は俺を含めて学ぶことが多かったのだろうな。
昨日よりも索敵範囲を拡大させていく。それほど広くはない一階層ならなんとかなりそうだった。
死亡者は出てなかったが、多くの怪我人が出ている。
ポーションや学園で治療した者もいる。だから、訓練をしたり作戦を立てたりしているのだと思う。
「さてと。今日はどうなっていることか……」
既に何人かはいるようだけど……何だ?
魔物の反応がどんどんと消えている。それだというのに、戦っているのはたった一人だと?
その生徒の近くへ向かい物陰からその人物を覗く。
そこで戦っていたのはラティファだった。実技訓練でも異様な強さだったが、実戦でも何ら問題はないのか。
片手剣ではなく、それよりも少し大きい長剣を使っていた。
その剣はまるで剣が燃えているかのように炎が揺らめいている。
ブレイズを付与しているのだろうな。火の付与による剣撃だが、生徒たちの多くは誰も一撃で倒せては居なかった。
それだというのに、ラティファは軽々と魔物を一刀両断している。
本当に学生なのかと疑うものだった。あの様子であれば、付与がなくても十分通用しそうなのだが。
しかし、俺の考えは見当違いをしていた。
ラティファは武器に付与をしているのではなく、火球を溜めているものだった。少し離れた敵には、剣を振るうと剣からは火球が放たれている。
なるほど、そういう使い方もあるのか。もしかして、パメラを選んでいた場合、悪役令嬢ラティファとの戦闘とかあったのだろうか?
今の様子からしても、手も足も出ないだろうな。
「ふぅ」
息を切らすこともなく、十数体を全て一撃で倒している。
現状で一番強いと言い切れるし、コイツなら一人でも十分のようだな。
お次はどうかな?
この数はどうせ王子だからパス。少なくなっているとはいえ、思った以上に少なすぎる。
特に問題はなさそうなので、近くにいた魔物だけを倒して回っていた。
昼になったところで、帰ろうかと思ったがダンジョンの中に入ってくる反応があった。
「あれは……何でそうなるんだよ」
気配をできるだけ消して後をついていく。
魔物がいるのは分かっていたが、運がよく一匹しかいない。
それでどう出るつもりなんだパメラ。
「くっ」
魔物を見つけると、少し怯えているのか?
槍を構え、ゆっくりと距離を縮めている。恐らく不意打ちを狙っているのだろうな。
昨日あれだけのことがあったというのに、ここに一人で来るとか何を考えている?
「はぁぁあ」
一撃は決まるものの、致命傷には至らず魔物はまだ生きていた。
武器の問題か? それとも力の差だろうか?
どうやら一撃で仕留めるつもりのようだが、魔物は塵化には至っていない。不意打ちは決まったものの、仕留められなかった時を考えていなかったというのか?
相手も手負いだが、戦いの音を聞きつけた魔物がこちらへと向かってきている。
このまま魔物を倒すことなく到着すれば確実にパメラはやられるだろうな。
「何でこんな無茶を……死ぬつもりなのか?」
追ってくる魔物を退治していると、無事にとは言えないが倒せたようだ。
パメラは辺りを見渡し警戒をしている。しかし、このままパメラだけを見ていて良いのだろうか?
他にも生徒は入ってきている……どうする?
「あ、やっぱりいました」
考え込んでいるうちに、パメラに見つかってしまった。
後退りするものの、パメラは距離を縮めてくる。なんかというか、警戒心というものがなさすぎるぞ。
「そりゃいるだろ? 学生なら他にもいるだろ?」
「おかしいと思ったのですよ。あんなに音を立てていたのに、魔物が寄ってこなかったので……だから、近くに貴方がいると思いました」
どういう理屈なんだそれは……それにしても厄介なことになった。
昨日の様子からして、付きまとわれる可能性を感じる。
ゲームでもパメラとは接点がないのに、何で俺に近づく必要があるんだ?
「まるで意味が分からん。魔物の数は今日は少ないみたいだしな。俺もさっき入ってきてまだ一匹も見ていない」
「本当ですか?」
「ああ、見てはいない」
嘘はついていない。いや、パメラの戦いを見たから嘘になるのか?
黙っていれば気がつかないよな。
「何でお前は一人なんだ? ミーアの所に入らなかったのか?」
「はい」
はい、じゃなくてだな。少しは食い下がれよ。
俺はともかくとして学生一人で入る場所じゃないだろ。
あの状態だったら、迎え入れてくれるのも難しいのは分かるが……とはいえ、レフリアとの相性も悪そうだしな。
「パーティー。入れてください、もしくは入ってください」
「それはどう考えても、どっちも同じ意味にしか思えないんだが? そもそも、昨日も断っただろ? それに、お前がいると邪魔なんだよ」
本当に邪魔なんだよ。
何匹かこっちに向かっているし、学生が少ないからか面倒な!
良いから向こうを向け、魔法がバレるだろうが!
「むぅ」
「むくれるなよ。可愛い顔が出しなしだぞ」
「かわっ」
イマダーーー!!
顔を隠ししゃがみ込むパメラと同時に、奥にいた魔物へと魔法を打ち込む。
よし、反応は消えたな。ほかは大丈夫のようだな。
「何だ? 腹でも痛いのか?」
「ち、ちがいます。いきなり、へ、変なこと言うから……もぅ」
「別に可愛いと思っていても変じゃないだろ?」
実際、パメラは可愛いと思う、それでもミーアにはかなり劣るけど。
ミーア達はもう入っているのだろうか? 何かアイテムを持たせて、位置を把握できるようになるものでもあればいいのだろうけど。
そんなストーカー共が喜びそうなアイテムは、当然そんなものはゲームでも無い。
俺が使っている索敵魔法で、今の所はなんとかなってはいる。
確実に相手のことを把握できる。そんな夢のようなアイテムがあるのなら俺だって欲しい。
「そんな事はどうでもいいんだが。お前はまだ残るのか?」
「どうでもいいって。まだ残ります!」
今度は何を怒ったりしているんだ?
パメラは俺のことを分かっているようだし、いざとなれば魔物を殲滅してからでもなんとかなるだろ。
それをまたパメラが言いふらした所で、誰も信じるわけがないからな。
「はいはい。今だけお供してやるよ。ここで死なれたりでもしたら困る。絶対に祟られそうだし」
「いいんですか?」
「ほら行くぞ……」
あれ? 少し嫌味を言ったつもりだったのだが、理解できていないのか?
ダンジョンを歩くが魔物は出ない。俺が先頭にいるため、前方の魔物は見える前に倒している。
右に人がいるな……三人。ミーア達だろうか? 魔力だけで識別できないのも困るな。
「こっちに行くか」
「はい。それにしても全然魔物がいませんね。今日はやっぱりおかしいです」
「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ……あ、誰かいるな」
ミーア達だったか。三人のメンバーは少ないからそうかもと思ったけど……
この状況を見られるのもあまりよろしくはない。ん? 婚約破棄を狙っているのだから別に構わないんじゃ?
いや、でも……なぁ。
「シルラーン様達ですね」
「そうだな、無事だな。お前は、ついでに今から入れて貰えばいい、だな?」
「喋り方が変ですよ? それに、私のことはよく思われていないみたいですので無理だと思います」
「ああ、ルーヴィア嬢か。それでもだ、一人でいるよりかいいだろ? 死んだらそれで終わりなんだぞ?」
昨日のこともあり俺なりに調べてみた。
毎年学生の死亡はゼロということはない。
上級生でも、年に数人の死者は出ている。
ここにいる学生も卒業すれば、領地へ戻るのだろう。それが貴族としての責務で、領民を守るために貴族はいる。
民は貴族を助けるために日々汗を流し、また冒険者として支えている。
冒険者の犠牲は、生徒の比ではない。学園のやり方が危険だとしてもこの方針を捻じ曲げることは出来ない。
「そもそも、俺の話なんかをするから追い出されたのだろ? 大体俺がお前を助けたってどういうことなんだ?」
「私を魔物から……それに、倒れている二人にポーションまで」
「俺は倒していない。他の誰か……お前のことを見るに見かねたやつじゃないのか? 俺がお前を見たときには魔物なんていなかったぞ?」
「嘘です!! そんなデタラメは聞きたくはありません!」
「大きな声を出すな。ここはダンジョンなんだぞ?」
パメラの口を塞ぎ大きく息を吐いた。
頼むから静かにしてくれよ。
あの時、パメラには見えていないはずだ。俺だという確証もないのに何故そこまでこだわる?
他のやつら同様に扱えばいいだけの話じゃないか?
「あの、大丈夫ですか?」
「あまり大きな声は出さないほうがいいよ。あれ? アレス君?」
「またあんたなの?」
今の声で余計にややこしく……パメラの声を聞きつけたのか、ミーア達に見つかってしまう。
ミーアは、俺がパメラの口を塞いでいることで、笑顔であるもののかなり怒っているように感じられる。
ほんと、一人になりたい。
ダンジョンに篭っていたときが懐かしい……こいつと関わってから碌な事がないな。
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