15.強くなるには


 結局あの教室では特に具体的な案はなにも決まらずに解散した。

 ただし、僕は新しいモンスターを捕まえること。アリスは戦闘はソラだけでもいいとして、アリスを守るモンスターを捕まえることを方針として決められた。


 そして僕はアリスとモモと一緒に女子寮に行く途中だ。


「やっぱりリンは弱いじゃん」


 今までずっとスライムは強いと主張していた僕に、アリスが非難の視線を浴びせてくる。

 今は強くないのはしょうがないじゃないか。ゴブリンも戦闘能力は強くないけど繁殖力で生き残っているし、スライムだって最弱なのに生き残っている理由は強さ以外にちゃんとあるんだよ。


「《ウルフギャング》もいるし」


「震えた声で反論されても……」


「? リンはゴーレムキャッチャーは上手かったよ?」


 僕の声が震えているのはいいとして、モモのそのゴーレムキャッチャーうんぬんのフォローは僕が強いかどうかに全く関係ない。モモはゴーレムキャッチャーが上手い=凄いになっていてカタクリよりも凄いって感じかもだけど。

 まあ褒められたんだし偉ぶっておこ。


「まあね?」


 胸を張ってそう言うとアリスは呆れた様子で息を吐いた。


「そんなことよりもこのまま行っても大丈夫なの?」


 モモが僕の強さの話をそんなことと言っている。

 結構僕からすると死活問題なんだよ? マジめっちゃ悩んでたりするんだよ?


「このままって何が?」


 アリスは僕も思ったところを的確に質問する。

 さすが何年も一緒にいた幼馴染だね。


 モモはモモで何を当然言いたげな顔で返答する。


「まだリンが女子寮に行くのは検討中って言ってたから」


 確かに!

 そういえばそんなこと言ってた。

 あまりにもそれが前提みたいな話し方をしていたから僕もそんなものだと思っていたけどまだ検討中であって、決定したとは言ってなかった。


 え? じゃあどうするの?

 まだ授業が始まらないとはいえその間の寝泊まりする場所は必要だ。

 それに僕はこれから寮に行った後に《スライム》と《ウルフギャング》に餌をやる予定があったんだけど?


 そんなの人気のない場所で勝手にやれと思うかも知れないけど、今も入学園祭はまだまだ続いている影響か、人気がない場所がないのだ。

 それにまだカタクリとやらに会いたくはないし。


「じゃあ、……リンまた明日。」


 アリスはクスクス笑いながら僕に言った。


「諦めるの早くない? もっと自分の部屋の中で匿うとか何かなかったの?」


 いや本当に。

 学園にやってきてまでホームレスにはなりたくないよ! それならまだ家の中で引きニートの方がましだ!


「もしバレたら私たちまで寮を追い出されるから私はやりたくない」


 そっか、じゃあしょうがない。

 考えた結果そうなっただけできっと僕は見捨てられたわけじゃない。


 とはいえ本当にどうしよう。

 したいことが出来なくなったし、何なら明日の寝る場所すらちゃんとあるのか不安になってきた。


「じゃあ私たちが先生に聞きに行くから、その間にダンジョンでも行ってくれば?」


 おお、やっぱり持つべきは包容力のある幼馴染だな。

 アリスはモンスターを僕が捕まえる間に僕の寝る場所を確保してくれるという。

 文字にしてみればもはやこれはヒモか何かでは?

 僕はアリスのヒモになるのは大歓迎だけど、それよりも早く強くならないと。


 そうして僕はアリスに先生に聞きに行くことを任せて、ダンジョンに向かうことにした。


 ちなみに、ダンジョンとは僕の『知識』の中にもあった。

 もちろんアマンダさんに説明してもらって擦り合わせは済んでいるので『知識』が間違っているのかどうかは気にしなくてもいい。


 そして件のダンジョンだが、『知識』にあるこの世界と思われるゲーム以外にもたくさんの創作物に出てくるものと大筋は変わらない。

 入った瞬間にモンスターがそこら中にいる魔境であり、そこを探索すると上か下に階段があり、その階段を進んでいくと最奥の【階層主ボス】と呼ばれる強力なモンスターがいる。

 そんな程度の認識で全く問題ない。


 もっと詳しく言うならダンジョンとは、さまざまなダンジョンがある。


 ちなみに学園から行けるダンジョンとは学園の中に転送魔法陣があるダンジョンだ。

 ダンジョンの中に直通の転送魔方陣がこの学園にはいくつかある。

 そのなかから行くダンジョンを選ぶわけだが、僕の『知識』にはこの学園にどんなダンジョンがあるのか分からないので、大人しくアマンダさんがお勧めしてくれたダンジョンに行こうと思う。


 アマンダさんにお勧めされたダンジョンは典型的な洞窟が続くダンジョンではなく、中に森があるダンジョンだった。

 アマンダさんがお勧めするくらいだから戦闘能力が低い僕でも油断しなければ死なない程度の難易度が最高のはず。

 そう思って、ダンジョンに入る前にどんなモンスターを捕まえるのか調べてから行きなさいと言われていたのにも関わらず、僕は何も調べずにアリスと別れてから直接ダンジョンに向かった。




 しばらく辺りを警戒しながら歩いて、ダンジョンに繋がっていると言われた転送魔方陣の前にやってきた。


 そっと足をのせて、気が付いたころには森の中にいた。


「おお、本当に森だ」


 僕の『知識』でもアマンダさんの説明でも知ってはいたことだけど、やっぱり実際に見てみるととても不思議に見える。


 もしも単純に森の中に転送されただけならもしかしてどこかの森の中に転移した? と考えることもあると思うが、今では絶対にそんなことは起きないだろうと分かる。

 何故ならこの場所には太陽がなかった。


 一体どんな仕組みのか、この場所は天井らしき場所が藍色に光っていて、高原はどこにあるのか全く分からない。

 とても神秘的な光景だが、これも僕は『知識』の中で知ってるかもしれない。


 白夜だ。

 おそらく僕の『知識』間違っていなければこの現象はきっと白夜、いやもしかしたら極夜かも知れないけど、きっとこのどちらかだ。


 こうしてぼうっと空を眺めているとモンスターに襲われる、ということはない。

 この転送魔方陣には魔除けの様なモンスター除けの効果も持っていて、この魔方陣の近くには無理やり人間が連れてこない限りモンスターは近寄らないからだ。


 そのおかげで転送する前や魔方陣のそばでモンスターを出すとモンスターの気分が悪くなったりするらしいので、僕は魔方陣から離れて《スライム》と《ウルフギャング》を放した。


 大きな音を立てることはなく、千を超える《スライム》と20の《ウルフギャング》を出しことが出来た。


 僕が指示を出すことなく各々やりたいことをやりたいようにしている。

 跳ねたり木に上ったり、中には何が面白いのか、お互いが空中でぶつかりあうのを延々と繰り返しているのも見える。

 そしてこれを独断行動という。


 まぁ、僕も千を超えられると正直個体の識別も難しいからなんとなくで指示を出すことが多いけども。

 指示を出していないにしても、あくまでここに残って居るのは一部であり、大部分は既に目の届かないどこかに偵察、もしくは好奇心を満たしに行っている。


 そんな自分勝手な《スライム》をよそに、《ウルフギャング》はきちんと出てきた瞬間からお座りをして僕の指示を忠実に待っている。

 ……最年少とその次以外は。


「アレッ? 小丸と虎徹は? ……スライムと遊んでる? そっか……」


 まだ子供だししょうがない。

 そうは言ってもまだ一番上でもまだ成犬になっていないほどに平均年齢が低いので、ここでお座りしているのもすべてまだまだ子供だ。


 気を取り直して僕はグループのリーダーである二匹の《ウルフギャング》に指示を出す。

 どうやら《ウルフギャング》内では男と女でグループが出来ているようで、ちょうど10対10の割合で時々競争をしている。


 まずは男のグループのリーダー、長男であり最年長のヴォルフ。

 まだギリギリ僕が抱えあげられる程度の大きさの黒い狼だ。

 どことなくあの狼リーダーの様な風格は感じるが、まだまだ遊びたい盛りの子供である。


 そして女グループのリーダーの長女でありおそらく二番目に大人なルーヴ。

 こちらはヴォルフとは対照的に白い毛並みをした狼だ。

 二番目とはいえ、ほとんどヴォルフと変わらない成長速度である。


 とりあえず僕はその二匹に探索を命じると、「ウォン」とほかの《ウルフギャング》に一鳴きした後に《ウルフギャング》たちは四方八方に散っていった。

 ちなみに虎徹と小丸はどちらも男の子なので男の子のリーダーのヴォルフとナンバーツーのルゥに首筋を咥えられて持ち運びされていた。


 子供しかいないのはしょうがないのでグループの中の年長者が面倒を見る形になった。

 ちなみに最近では《スライム》に指示を出す場合も僕が直接いうよりも《ウルフギャング》に頼んだ方が良く言うことを聞くような気がしてならない。本当に群れのリーダーになりつつある。喜ばしいことだけど、僕の立場がないよ。


 僕は《ウルフギャング》の報告を待ちながら、《スライム》の個体の識別を出来るようにする作業を始めた。

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