第25話

 それどころか、世間体が邪魔して何もできないのではないだろうか。だって、裏の畑で人形の手足がでてきた。子供たちはバラバラにされても生きている。羽良野先生は恐ろしい怪物だった。ことり幼稚園の児童がバスの中から保母さんや運転手ごといなくなった。こんな事件は誰も。いや、ぼくがやらなければならないのでは?

 信じてくれる人もいない。

 解決は出来るか解らないけど、一人で何とかするしかないんだ。

 ぼくは関わってしまった。

 こんな事件に。

 でも、あまり気にしないんだ。

 ぼくは空想の延長がたまたま現実になったとだけ思っているんだ。

 それは恐ろしい現実だ。

 でも、時々すごく怖いけど本当はあまり気にしていない。

「さて……。問題のバスの場所へ行こうか」

 ぼくはリュックにまだ半分ある水筒を入れると、八文字商店街を突っ切って、人気のない道路へと出た。


 周りに点々とした畑と雑木林があるだけで、何もない静かな道路だ。

 所々、アスファルトにヒビが入っているだけで、近くには電信柱が並んでいる。

 畑の一つに、そこは大根が植えてある場所に、大家族の方の田中さんの3番目の息子さんがいた。他の畑にはここの地の人たちが仕事をしていた。

 3番目の息子さんの三部木(さぶき)さんが、こちらに手を振った。

 大家族の田中さんは息子さんが6人いる。

 全員農業を元気にしていた。

 三部木さんが畑から大根を一本抜いてぼくに渡した。

「辛くはない大根はうまいぞ! ここら辺の大根はみんな甘いんだ! ぼくは確か歩君だね。見てご覧。畑には雑草一つないだろう。全部俺だけが一日中かかって手で抜いたんだ。凄いだろう」

 嬉しそうな三部木さんは、作業ズボンと白のランニングシャツという恰好で、土の匂いがプンプンする畑で豪快に笑った。

 歯が健康そうに白く並んでいる。

「へえ、凄いや。でも、あそこのカカシが少し斜めになっているよ」

「アハハ、雑草を抜いている時に傾いたな」

「いつも一人でやっているの?」

 広大とは言えないけど、それでも一人で仕事をするには大きすぎる畑だ。

 向かいの住宅街がかなり遠くに見える。


「ああ、俺だけさ。後はたまに兄貴の四部木と弟の二部木が手伝うんだよ」

 三部木さんは終始笑っていた。

 農家の人は大らかな心を持っているんだ。

 ぼくはお礼を言って大根を貰い。

 ヒビの入った道路を時々、見つめながら商店街の方へと帰った。

 三部木さんがいるんなら、調査はできない。

 知られると困るのが、この事件の嫌なところだ。

 さあ、家に帰ろう。

 甘い大根が今回の収穫だ。

 裏の畑では辛い大根。利六町の畑では甘い大根。何かあるのかも知れない。ぼくはこの甘い大根を裏の畑に植えてみるつもりだった辛くなるかもしれない。

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