第23話
後ろから羽良野先生の物凄い足音が追ってくる。
階段を急いで降りるような音に近かった。
僕は全速力で元来た体育館へと向かった。そのまま学校へ入って来たガラスの引き戸へと体をねじ込む。
何かが飛んできた。
体育館の壁に突き刺さった。
僕は怖くてそれを見もしないで、引き戸から外へと出た。
杉林の起伏を死んでしまうくらいに息を切らせて、走り出した。
滅茶苦茶に家まで走っていると、顔を出した強い太陽光のために、汗が滝のように湧き出て洋服がびしょびしょになっていた。まだ、足がガクガクと震えて宙に浮いている感じがしていた。いままで必死に走って来たから呼吸もかなり苦しかった。
家の玄関を開けると、驚いているキッチンの母さんと亜由美を気にせずに、すぐに自室へと向かった。
机で顔を伏せて考えた。
これからどうしよう。
そう考えていた。
もう学校へは怖くて行けない。
何とか学校に行かないですむ休む理由はないだろうか……。
用務員のおじさんが死んでいるなら、学校はどう反応するんだろう?
多分、犯人が捕まるまで休校をするだろう。
ドアをノックする音がした。
ぼくは瞬時に涼しい顔を張り付けて開けると、妹の亜由美だった。A4ノートを破いて書いてある言葉を見せた。
「遅かったじゃない。服がびしょびしょだから、お風呂に入ったら?」
亜由美はたまに優しいことをする。
ほんの気まぐれみたいに。
ぼくは「解ったよ」と言うと、お風呂へ向かった。
和室から幸助おじさんの唸り声が聞こえて来た。
お風呂の中で考えた。ぼくはこのことを警察には知らせられないみたいだ。
生きた首を持ってきていない。恐らく羽良野先生が隠したと思う。バラバラ生き事件なんて、聞いたこともないから、警察は大人より僕を疑うことは間違いなしだと思うんだ。
だって、そうでしょう。
大人の言葉は大抵は立派に見えれば誰もが信じるけれど。子供の言うことなんて誰も信じないんだ。
僕が戦っているのは、この不思議な事件だけではないと思う。そういった周囲の見えない何かとも戦わなければいけない。
夜遅く、ぼくの家にも電話がかかってきた。
父さんが出たけれど、話の内容は解る。
キッチンにある電話の受話器を置いた父さんの顔は、険しく少し赤みがあった。
「歩。亜由美を呼んできなさい」
ぼくは二階にいる亜由美を階段越しに呼んだ。
キッチンにはみんな揃った。
父さんが静かに言った。
「学校はいかなくていい。何かよくないことが起きたみたいなんだ。しばらく休校になるそうだ。危ないから、あまり外へと出ないことと、不審な人には近づかないこと。父さんに約束してくれ」
父さんはテーブルに座る。ぼくと亜由美の顔を覗くように言った。
「このところ、何が起きているのか解らないな」
おじいちゃんが呟いた。
おじいちゃんは僕の頭を優しく撫でて、にこやかに言った。
「何も心配ないくていいからね……。時間が経てば何もかもよくなるさ」
おじいちゃんは、それから亜由美にも優しい言葉で話している。
僕はその通りだと思った。
時間の方が強い。
羽良野先生はじきに捕まる。
そして、この不可解な事件は解決するかも知れない。
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