第14話 かくれんぼ

 体育館のステージの下には、体育館の面積を埋める程の椅子やテーブルが置いてある空間がある。整理整頓された椅子とテーブルは全て折り畳み式だ。隅っこからこっちまで並んでいる。

 埃と木の臭いが強くて、薄暗い場所だから男子たちには恰好の遊び場だった。

 そこへと僕は羽良野先生に連れられてきた。

「石井君……。どういうことかな? どうして、みんなと一緒に整列していなかったの?」

 羽良野先生は僕の目を真正面から見て、この子は一体何をしたのという感じの少し奇妙な顔をしていた。


 僕はどういえばいいか考える。

 本当は、先生たちの話を盗み聞きしていた。

 裏の畑から子供たちの……生きているけれど、バラバラの死体を見たから。

 隣の町の子供たちを乗せた帰りのバスから、一クラス全員行方不明になった。

 犯人が関係していそうだけれど、さっぱり解らない事件だ。何故って、どうやってと言うと具体的にはさっぱり解らなくなるからだ。

 放送室でチャイムが鳴った。先生たちが調べると子供の手の人形らしいものがあった。


 犯人は誰だか解らない。


 僕は考えたことを整理すると先生に勇気を持って告げた。

「僕じゃないよ先生。チャイムのことは知らない。トイレに行ったんだ」

 そう僕は涼しい顔をして言ってのけた。

 羽良野先生が混乱した。

「石井君。もう一度聞くわ。しばらくの間。本当にトイレに行ってたの?」

 羽良野先生は厳しい顔のまま言った。

「僕じゃない!! トイレに行ったんだ!!」

 僕はわざとムキに言った。

 第一、犯人が近くにいるとしたら、本当のことを言うのはすごく拙い。ひょっとしたら、目の前の羽良野先生かも知れない。

 犯人に僕が探偵のようなことをしていることは、当然なことだけど隠した方がいい。


 ここは何も本当の事を言わずに嘘を吐いていこう。

 羽良野先生は混乱した様子だ。

 羽良野先生の青白い表情を見て、僕は考える。だいたい解るけれど、裏の畑から人形の手足がでてきたのは、僕とおじいちゃんと母さんとお巡りさんの内田が見つけたからで、こうなると、そのことを一番に知っている羽良野先生の考えは、自然に僕が犯人か、それとも何かの間違いで本当にトイレに行ったのかのどっちかだ。つまり、気味が悪いと思われるし、疑われるけれど、この際は仕方がない。どちらにしてもバスの件があるから気にしなくてもいいくらいだ。


 それに、僕が盗み聞きしていた場所のクラスの生徒たちは、話に夢中で僕が隣にいたのかは正確には解らないはずだ。

 他の先生たちがステージの下へと、降りて来た。

「どうしました? 羽良野先生?」

 6年生のクラスを担当している男の先生。真壁先生だ。スポーツマンで髪の毛は短めで、いつもジャージ姿でホイッスルを胸にぶら下げている。

「何でもありません。真壁先生。……石井君。後であなたの家に行ってお父さんとお母さんに相談したいことがあります。下校の時は私の車で送って行きますから。お母さんにはそう伝えますね」


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