第10話

「まあ。事件というわけでは……」

 あれから、しばらくたって、父さんが帰ってきた。キッチンで大人に混じって僕は思考を巡らす。内田は首を捻りたい気持ちを極力我慢しているようだった。


 カエルに似た顔は不可解な出来事に直面して、今では目玉が大きく開いて、まるで窒息しそうなカエルの顔がそのまま大きくなったように見えた。

「歩。いつ頃、見つけたんだい? 人形の手足なんかを裏の畑に埋める人がいるなんて? 一体、誰だか解らないけど、あそこはこの近辺に住んでいる人達の。大事な誰の土地でもない。自由な野菜作りができる場所なのに……。どうして、こんなことをするんだろう?僕は怒りたい気持ちでいっぱいだよ」


 父さんは母さんが人数分淹れたお茶を啜りながら、小さい事件の犯人に憤慨していた。

「そうね。でも、子供の仕業なら、誰の家の子かしら? この近辺って子供が多いでしょ」

「確かに子供と年寄りだけだね。佐々木さんや藤堂さんに篠原さん。大久保さん、田中さん……きりがないね」

 おじいちゃんは、猿のような顔の皺を増やして俯き加減だ。

「誰の悪戯か知らないけれど、犯人の子を見つけてください」

 母さんは内田にお茶を注ぎながら自然に懇願していた。


 僕はみんなの会話に参加せずにキッチンのテーブルで、子供の生きたバラバラの部分は時間が経つと、人形になるのだろうかとも考えていた。

 もしそうなら、昨日の朝に埋められていたのであれば、合点がいく。

 でも、そんなことがあるのだろうか?

 子供たちの切断面は赤黒く、血が固まっていた。それに、人形には胴体と顔がなかった。


 それでは、子供たちの生きているけれどバラバラの部位を、掘り出してから人形の手足を埋めたのだろうか?

 そして、犯人は子供たちをいつ埋めたのだろう。臭いは確かにすごく薄いから、通りの砂利道までは漂わない。広い裏の畑は周囲を砂利道で覆われているけど、僕の家だけが面していた。

 毎日、子供のバラバラの部分を少しずつ畑に埋めていても誰も気が付かないかも知れない。


 亜由美はさっさと、話に加わらずに二階の自室に行ってしまった。

「まあ、確かに事件というよりは不気味なだけでも事件ですからね。いや、不気味過ぎるから事件か」

 内田はそう言うと少し目を細めて呟いた。

「盗品……?」

「まあ! あの手足が盗品だとしたら、大人が埋めたと仰るんですか?」

 内田は目を瞬いて、

「いえ、失敬。独り言を言ってしまって、すみません。でも、盗品の可能性もあるかも知れないので、その線で捜査をしてみますよ……」

「本当に、不気味だわ……」

 父さんとおじいちゃんは普段は見せない険しい顔を見合わせていた。

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