第7話

 野菜と一緒に埋めると何かいいことがあるのかな?

 ひょっとすると、子供たちを警察の人が回収して病院に送ると、子供たちは元の姿に戻るのかも知れない。けれど、だれの手かそれともだれの足かが解らないかも知れない。


 ぼーっと、そんなことをノートを見つめて空想をしていたら、篠原君が横から消しゴムのカスを投げてきて、二ヒヒと笑った。

「よ。今日も裏の畑に行こうや。石井君の家の裏の畑って、できの悪いスイカをいくら割っても誰も怒らないからいいよね。それに、スイカを一振りで割ると一杯種が辺りに散乱するからいいし……シシシシ……」


 窓際の藤堂くんは、ふざけた調子で教科書を丸めて棒の形にすると、棒を振る真似をしていた。すると、たちまち羽良野先生に注意された。

 僕は首を振り、

「ごめん。今日は亜由美の奴を家まで送ってくれない? 僕はちょっと母さんにお使いを頼まれたんだ。急な用事で熊笹商店街に行かないといけないんだ……。だから、先に帰るよ。あ、亜由美には黙っててくれないかな。今晩の夕食の材料だから大したことは無いし。きっと、今日一日限りの特売か何かじゃないかな」


 僕は篠原君に咄嗟に嘘を並べた。

 今日に警察の人にバラバラの子供たちを残らず渡せば僕は有名人になれるはずだ。

 けれど、来月には隣町に引っ越してしまうんだ。

 みんなに注目されるのはあっという間しかないから急がないと。


「なんだ。まあいいけど……」

 二人が顔を見合わせながら溜め息を吐いた。

「あっ、藤堂君には帰りに植物図鑑を返すよ」

 二人はバツが悪そうに勉強に戻った。


 下校の時には僕は藤堂君と篠原君に亜由美を任せて、小走りで一人で帰った。

 裏の畑へと向かう途中、天気予報の言った通りに空がどんよりと暗くなっていた。ポツポツと小雨が降ってきて、すぐに夕立になりそうだった。僕は傘をさして、仕方なく歩いて裏の畑へと急いだ。


 杉林が覆っている場所の野菜を押しのけて、空からの水滴によって泥となっている畑の土を掘り起こすと、泥まみれの手が見つかった。空からの小雨と薄暗さでその手を確認した。動いていない。子供の手は冷たくなっていた。切断面は赤黒くなっているようで、真っ赤な焼けた鉄の棒を押し付けたような感じだ。  

 死んじゃったのかなと思っていると、別の生きている子供の部位を探そうとしたら、急に心臓に響くくらいの大きな音がして稲光が空を覆った。僕は今日のところは手だけを持って警察の人を探すことにした。


 東の方には小さい駅がある。

 御三増駅。

 昇降量は一日平均30名たらず、列車の本数も少ない。寂れた駅だけれど駅長だけは有名で昔、テレビに映ったことがあった。

 僕はその近くの交番に手を持ってきて、上気した顔で二人の警察の人に子供の手を渡した。


 最初、警察の人たちはびっくりしていた。

 小さな交番には二人のお巡りさんがいた。

 一人は四角い顔にメガネを掛けていて、書類が散乱した机で書き物をしていたけれど、僕の持つ子供の手を見つめていて、顔に厳しさと青白さが少し現れた。

 もう一人の人はカエルのような顔で大柄の人だった。子供の手を指紋がつかないようにと、泥を丁寧に拭きながら何も言わずにいたけど、子供の手の泥を拭きながら次第に顔が険しくなってきた。

「なんだね! ぼく! これは人形の手じゃないか?!」

 カエルのような人はハッとした僕の腕を掴んでいた。

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