給餌

老婆が揺すっても中々起きなかったので男は先に自分の飯に有り付くことにした。


どろどろに溶けちゃいたがそこは味噌を溶かした米の飯だ。


中々には旨い。


お侍さん達が格好つけて厨に入らず、それを真似する町人もいたが、

自分で飯を作って食ってみると他人に作らせるより何倍も旨く感じる。


あいつらは可哀想だなぁと思いながらガツガツと飯を平らげていく。


すると音か匂いにつられたのか老婆が身じろきをしたので、


「おい。婆様飯だぞ。口を開けなぁ。」


と声を掛けてやった。


その瞬間、(あぁ、しまったなぁ。)


と後悔したが、誰かと勘違いしたらしい老婆は、

仰向けになりゆっくり口を開けたので、数刻前と同じように匙からゆっくり重湯を垂らしてやった。


少し垂らすと旨かったかふふっと笑ったので少し多めに垂らしてやる。


すると少し苦しそうにしだした。


体が臭くて出来れば触れたくなかったが、起こして少しずつ口に入れてやる。


椀をほとんど平らげたところで首を振っていやいやをしたので、


「あと二口だぁ。婆様。頑張りなぃ。」


と口に入れてやった。


その後、満腹になって満足したのかまたすぅすぅと行儀よく寝だしたので、

男はまた自分の飯をガツガツと食いだした。


そういや人と食う飯なんて久しぶりだ。


鍋底に少しばかりのおこげを見つけ、やはりいいことはするもんだと、

ぺりぺりと丁寧に剥がし、いくらか食ってから残りは腹が減った時の為にとっておいた。

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