空き巣が入った部屋
志堂 努
空き巣が入った部屋
とあるマンションの一室。
玄関の鍵を開けて中に入る。そこにあるのはくたびれたランニングシューズと有名ブランドのスニーカーだけで、花や小物など華やかに彩るものなど一つもない。
リビングに行ってもシンプルなソファーやテーブルがあるくらいで味気ない。
台所のシンクには朝ごはんを食べたままにした食器とグラスが一人分。一応、来客用の食器もあるが棚のなかで黙り込んでいる。
でもまあ、男が独り暮らしをしていればこういうこともあるだろう。特にこれといった趣味がなく、彼女や友人を招き入れたりすることもなければ、生活に最低限のものさえあればいいのだ。とはいえ、さすがに寂しいとは思うが。
テーブルの上の新聞を軽く見て、引き出しの中の手紙を確認する。それからその下の段にある仕事の書類を見ていると、ガチャリ、玄関から音がした。
驚いてそちらへと首を捻る。
一人暮らしで、来客のない部屋に入ってくるやつの正体なんて一つしかない。
危険を感じ、急いでリビングに併設する寝室へと逃げ込む。音を立てて相手に気付かれてはいけない。慎重にドアを閉め、それでも少しだけリビングが見えるように細く開けておく。
なかなかリビングに入ってこない。玄関の方から物音がする。なにか物色しているようなそれ。ごくり、と飲み込んだ唾の音がやけに大きく聞こえて、私は少し焦った。
リビングの扉が開いて電気がつけられる。そこに現れたのは三十代くらいの男だった。室内をキョロキョロ見渡している。
キッチンに移動し、またキョロキョロ。
戻ってきて、テーブルの新聞を持ち上げて、また戻す。それからさっき私が見ていた引き出しを上から順番に開けていく。
ここに金目の物なんて一つもない。
なのにどうして入ったんだろう。
緊張のあまり喉が乾く。止まらない汗のせいで背中にTシャツがぴったりとくっついている。ドクドクと相手に聞こえそうなほど心臓が跳ね、収まりそうにない。
まさか聞こえてしまったのか、ついに男の顔がこちらに向いた。
やばい、こっちに来る。
慌ててベッドに躓きそうになりながらも、私が隠れたのは備え付けのクローゼットだった。今度はしっかりと閉め、息を殺す。さらに両手で口と鼻を押さえた。
ここを開けられたら、やつに見つかったら終わりだ。
足音が近づいてくる。
確実に目の前で止まった。
だけど扉は開けられない。
もしかして、気付いてないんだろうか。
それなら、ありがたい。
頼む、どこかに行ってくれ。
そう心の底から祈った。
すると男の足音が離れていく。
よかった。
大きく胸を撫で下ろしたが、それもつかの間。また足音が近づいてきた。しかもなにか様子がおかしい。
だって、明らかに一つじゃない。
これは、囲まれている。
仲間がいたのか?
話し声が聞こえる。
あっ、これは仲間とかではない。
それに気付けば、肩の力が抜けた。
カチャッ、小さな音がしてクローゼットの扉がゆっくりとひらかれる。
縦にのびる、一本の光。
それが妙に、目の奥に焼き付いた。
開けられた扉の先は眩しかった。
あぁ、終わった。
もう、お先真っ暗だ。
次に私が入ったのは、そう、牢屋だった。
空き巣が入った部屋 志堂 努 @ojyotoru
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