一時の夢

「「あっ・・・。」」


眩しい中に、目を見開いた彼がそこにいて、太夫を見ると嬉しそうに目を細めた。


期待などしていないと思っていたのに表裏に揺れていた希望の一つが思いもせずにかなってしまった。


またあの木陰だ。


通りで立ち止まると目立ってしまうと解ったのだろう。


嬉しそうにこちら見ると、何か投げてよこした。


それが折り紙の鶴と解ると、余りにも可愛くて泣きたいのにクスリと笑ってしまう。


きっと、彼に逢うのもこれが最後であろう。


あまりに嬉しく寂しい贈り物だ。


朝霧は彼をじいっと見つめてみた。


段々と男の色が出て来て、初めの頃より体もしっかりしたように思う。


美男などではないのに高い頬骨にくりくりとした目が愛おしい。


黒く汗ばんだ肌も若く輝いて、何だか自分には眩しい。


声変わりの仕切った声もホントは聞いて見たかった。


名前だって他の女の口からでなく、その口からこぼれおちるところを耳で目で感じたかった。


筋ばって来た手に少しだって触れて・・・。


見れば見る程色々な欲が出てくる。


子供相手に浅ましいと自分に言い聞かせて、

不思議がっているあの子にいつものようにきれいに笑って太夫は窓をそっと閉めた。







部屋に闇が落ちる。

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