落陽 ‐おちるひ‐

窓を開けずに暫く立って、そろそろ年季が明ける頃、

焦ったように廓の店主と女将さんが太夫の元までやって来て太夫の元で土下座をして来た。


何事かと思うと、どうやら例の呉服屋の旦那が太夫を囲わせろと言ってきたらしい。


この夫婦はそいつに借金があって、頭が上がらぬので太夫を頼りにやってきたのだ。


元より太夫に選択肢などないのだろう。ずっと二人は太夫に良くしているようで、

普通に働かせはせず、遊女をやらせたのだ。


同期に年季明けが無いのも、元より女達を逃がす気などない店主のがめつさが見える。


父が借金をしたのも本当はこの店の先代だったはずだ。


見世が少し傾いて来たのは、太夫も代が代わってから薄々とは気付いていた。


他の女達と比べると、ずっと良い待遇を受けていたのは事実だが、

本当は自分の借金などもっと少なく、何も知らぬ女だからと足元を見られていたのは知っている。


傾きかけている店が、看板を簡単に手放す訳がない。


自分は年季明けの名の元に、年取るまで安い給金で遊女として働かされることになるのだろうと、

少しの覚悟はあった。


死んだ幼馴染への罪悪感など自分の生活のために捨てられるのが人間だ。


それに・・・。と太夫は考えた。


呉服屋の旦那は妙な博打屋や浪人たちと通じているため、断っては自分の身も危ういだろう・・・。






太夫は薄く、二人に向かって笑って見せた。

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