この世界に私はいない。

若狭屋 真夏(九代目)

夏が来たる

「昔 テレビか何かで見た事あるのよねぇ」村山楓(かえで)は一人でぼそっとつぶやいた。

目の前にはいつも目にする漁港が広がっている。

しかし視線を上に上げると何かが天空から網を広げたような形になっている。おわん型みたいなものだ。

「おいねぇちゃん」と楓に呼びかけるのは若い漁師だった。

「は。はい」

顔を彼に向けると彼は「あんたここら辺の人間じゃねえな。ドームにかえるんだろ?あそこに戻るなら日が暮れる前にしろよ。入れなくなるぞ」

「え?」楓は答えに困った。

「あの~、バス停はどこにあるんですか?」

「はあ?」漁師は面食らっていた。

「なんだ電話ないのか?しょうがねぇな。今呼んでやる。」

そういうと彼は眼鏡をかけた。


彼は眼鏡をかけるとその細い目を右に左に動かす。

10分ほどその奇妙な行動を見守ってると彼は眼鏡をはずした。

「ほら。あと10分ほどで来るから」

「ありがとうございます」楓は一礼した。

「じゃあな」と彼は船に戻った。


「今何やってたんだろう?」と不思議に思ったがそこで待つことにした。

「呼んだってタクシーかな?バス停はここにはないし」

待っている間にスマートフォンを出してみた。

スマホは電話もネットも使えない。

おかしい。すべてがおかしい。

そう思っているところへバスがやってきた。

「バスは普通なのね」

見ると運転席に人はいない。

「映画なの?」

とりあえずここにいてもらちがあかないのでバスに乗る。

「このバスはドーム行です」

楓は椅子に座りシートベルトをするとバスのドアがしまり

「出発します」といって走り出した。

おそらく今は夏なのだろう。汗がしたたり落ちそうだ。

バスのエアコンがフル回転しても汗が引かない。

バスはドームに向かい進んでいき、やがて大きな壁が目の前に見えてきた。

「なにこれ?」

バスは壁を超えるとさっきまで暑かったのに急に涼しくなってきた。

見るとバスのエアコンは止まっている。


「次は終点 Y駅前です」


どんどんバスは進み駅前のロータリーで停止した。


「ありがとうございましたー」と小さな声でお礼をいってバスを降りた。


駅前についたが気温は春のように過ごしやすい。

「はー」この世界についてからため息ばかり出てしまう。


「いったいどうなってるの?」

スマホを再び手にするがまだネットも電話もつながらない。


これじゃどうしようもない。

ドラマではお金が使えなかったりするんだったわ。

そう考えると頭が痛くなる。


楓がスマホを操作するのを見て一人の高校生が近づいてきた。


「へーこれ専門書でみたことあります。実物をみるのは初めてです」

随分と失礼な言葉をかけてきた。

このスマホは先月発売された最新鋭のやつなのだ。

しかし日本で10万台は発売されたとおもう。



「あの?」

「え?」

「今何年ですか?」

「へ?」

高校生はキョトンとした。

「27年ですよ。令和。」


「あ~。」楓は大きな声を出した。うすうすはわかってたけど。

やってしまった。

タイムスリップを。

まあやりたくてやる人はいないんだろうがやってしまったのだ。


困っている楓に高校生は

「あの。・・・よかったらうちの会社に来ませんか?」


「え?」

「あ。私こういうもので」

といって名刺入れを内ポケットからだし名刺をだした。


「株式会社 凧 代表取締役 山田 かいと」

と書かれている。

いままで経験したことがない最先端文明に接してきたのにここにきて「名刺」なの?

「ふふ」少し笑えた。


その姿を社長のかいとは不思議な顔をした。

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