第3話 黎明の空 part3
担任の先生も、いい人だということは顔つきでわかる。全体的に若い先生が多いみたいで、フレンドリーな人ばかりだった。そんな人でも、私は人見知りをしてしまう。第一印象がこれでは、誰からも好かれることはないだろう。私はとにかく第一印象が悪い。誰にでも人見知りしてしまい、目つきが悪くなる。眼鏡をかけているのも、目つきが悪くなるのを隠すため。一応、ブルーライトカットだけは入っているから、それを度が入っていない言い訳にしている。しばらくの間、担任と母の会話を静かに聞いていた。
「うちにクラスは、みんな仲がよくて・・・。」
転校してきた人間に対して、使い古された定型文のような台詞が飛んできた。知ってる。小説に書いてあった。そのセリフの通りに、クラスは仲良くないのが定説だ。先生のセリフは必ずフラグになって、後々膿のように問題が出てくる。本当にそういうところもあるかもしれないが、転校初日の私を緊張させまいとしている先生なりの配慮だということはわかる。
「じゃあ、そろそろ時間だから行こうか。」
担任のその一言で、私の心臓は飛び上がる。いよいよだ。私は爪をたてた状態で、左手首を掴んだ。
母と別れて、教室に向かう。
「みんな転校生が来るって盛り上がってたんだ。」
意気揚々と私に話しかける担任。これが転校生の経験する、過度な期待というやつか。そんなに期待されても、それに答える技量を持ち合わせている転校生がどれほどいるだろうか。基本的に、転校初日なんて緊張しているのだから、萎縮してしまうのが普通。でも、これは私が選んだ道なので、仕方がない。それをわかった上で転校という選択肢を選んだのだから。
まず、担任が教室の中に入る。廊下には私1人。余計に緊張感が高まる。逃げ出したい衝動に駆られるが、それは叶わない。叶ったところでということもある。間違いなく私は学校に来なくなるだろう。半分諦めで、担任の呼びかけを待つ。
「じゃあ、佐藤さん入って。」
ゆっくり、教室の扉をあける。扉を開ける音よりも心音の方が私の中で響く。静かに歩みを進めた。教室の中に足を踏み入れた。私に向けられた拍手か、もしくは仕方なく拍手しているだけの拍手か、パチパチという音だけが自分を向い入れた。何人かは拍手していないのがわかる。教壇からははっきりと生徒の行動が見えていることを実感した。拍手していないのは女子の方が多かった。
「では自己紹介してもらおうかな?」
出た。地獄の自己紹介。名前以外自分を語ることなんてないし、好きなことは本を読むことぐらいしかない。話すことが絶望的に少ない私にとっては、苦行だった。
「佐藤暦です。東京から来ました。好きなことは本を読むことです。よろしくお願いします。」
私は、今思い浮かぶ自分の簡単な情報を提示した。本当に、これくらいしか話せることはなかった。私が頭を下げると教室中から、一応の拍手が響く。
「じゃあ、今日からよろしくね。席は、後ろの空いている席にお願いしようかな。」
私は教壇から降りて、指定された席に向かう。私が横を通ると、話しかけてくれる人もいたり、じっと私をみてくる人もいた。荷物を下ろし、席に腰掛ける。緊張感でカチカチになっている私をみて、右隣の女子生徒が話しかけてきてくれた。
「初めまして。私は小倉すず。佐藤暦さん今日からよろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「同級生なんだから、敬語は無しにしようよ。私も、暦って呼ぶからさ。」
「わかった。すずさん?」
「まだ堅苦しいけど、まあ今はそれでいいか。」
すずさんは私に笑いかけてくれた。いい人なのは表情から伝わる。綺麗で、可愛いし、社交的。まさにクラスのマドンナ的な存在だろう。私はその流れのついでに、席の左側を見る。男の子がずっと文庫本を片手に先生の話そっちのけで読んでた。多分私の話も聞いてなかっただろう。すごい集中力なのはみてわかる。
「空、転校生の佐藤暦さん。一応、挨拶しなきゃ。」
自分の肩越しにすずさんが話しかける。彼は、仕方なく文庫本を置き、私に挨拶する。
「今田空です。今日からよろしくね。」
不思議な感じだった。挨拶はそっけない感じだったが、どこか懐かしい感じ。まるで幼馴染か、生き別れた兄弟に会ったみたいだ。ただ、それを感じたのは私だけみたいで、彼の顔は100%作った笑顔だということはわかる。それでも、なぜか彼に興味が出てきた。
「そっけなかったでしょ?いつもあんな感じだから気にしないで。」
隣で、すずさんが彼のフォローをしているが、私の耳には届かなかった。
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