第5話 「……そうなの?」

 結衣は、同調することが苦手で、自分の考え、目標を立て、自分で行動する。

 それを、あまり深いところまで分かっていなかった僕も、悪かったとは思うのだ。


 喫茶店で相談を受けたその後も結衣との会話は続き、今後の方針の話や、その他とりとめのない話などをしているうちに日が暮れ始め、その日は解散となった。


 彼女は僕と翔の関係性について詳しく聞きたかったらしく『僕や翔が互いに対して何をおこなっているか』を質問し、僕はまぁ、それなりに答えた。


 僕と結衣で会話をし、今後、どんな行動をとれば友達が作れそうか、僕がアドバイスをし、結衣がそのアドバイスをもとに行動するという方針で行こうということになったのだが……。


 そこで、困ったことが起きた。


 翌日、結衣が奇行に走ってしまったのだ。


 今、放課後の時間を使い、僕は今日の行動の感想を聞いてきた結衣に対して、その一連の行動の理由について話をして貰っているわけだが。


 なんというかその……うん。

 素直というのは、欠点もあるものだな。


 僕がどうしたものかと考えていると、近くの席で長考していた結衣が、再度口を開いた。


「……もう1度、確かめてもいいかしら」


「あぁ。なんでも聞いてくれ」


「貴方と坂上くん……親友である2人は、互いに憎まれ口を叩くような関係性でいるわね?」


「うん」


「憎まれ口というのは、相手に憎まれるような口の聞き方……つまり、相手に不快な印象をあたえるような口の聞き方よね?」


「うん。皮肉っぽいというか」


「……何を間違えたのか、分からないわ」


「1回俺が確認しようか……まず、俺は確かに、俺と翔は憎まれ口を叩き合うほど仲が良いと言った」


「ええ」


「結衣さんはその意味を、憎まれ口を叩き合うことで人は仲良くなれると解釈してしまった。これが1つ目の間違い。で、2つ目なんだけど……」


 一瞬の沈黙の後、僕は切り出す。


「ヤンキーの真似をすることは、憎まれ口を叩くことと、イコールにならないんだ」


 ……結衣は、心底驚いたような顔をした。


「……そうなの?」


「……そう、だな」


 そう。結衣の奇行、それは……不良、いわゆるヤンキーの真似をする事だった。次の教科を聞かれれば「あ"ぁん? 数学Bだがぁ?」と答え、一緒に弁当を食べようと誘われれば、「食べるぜオラァ!」と言う。


 はっきり言って、何が起きたのか分からなかった。


 自分のした事が間違いだったと理解したのか、結衣は僕に深々と頭を下げ「本当にごめんなさい」と謝罪した。

 結衣が奇行を起こしたことによって、僕に被害は無いわけだし、というか止められなかった僕が悪いのだし、結衣が謝る必要は無いのだが……結衣としては、僕をヒヤヒヤさせてしまったのだから謝りたいという気持ちだったらしい。


「私、すごく大きな勘違いをしていたのね……改めて聞かせて欲しいわ。私が、何をすればいいのか」


 結衣がするべきこと、それは多分……。

 よし。


「多分、結衣さんは他の人が同調しない理由が分からないことがあって、人の気持ちを汲み取ることが難しいんだよ。だから怖いというか……」


「怖い? みんな、私が怖いの?」


「そう、だな。怖い。だからもう少し柔軟に対応するべきだと思うよ」


「柔軟に?」


「そう。柔軟に。具体的に言うなら、思いやりを持って接する……とかになるのかな」


「思い、やり……そう……そうなのね」


 結衣は、理解したように頷き、思いやり、思いやりと、何度も復唱していた。


 本当に理解しているのかは微妙なところだが、間違っていたらまた注意すればいいだけの話だ。


 ひとまず、これで様子を見てみるとしよう。

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