第43話 愛と憎しみ「駈込み訴え」

「申し上げます。申し上げます。」で始まる、太宰治の短編「駈込み訴え」。

 13歳の私は、胸が苦しくて苦しくて、あの時感じた苦しさは今も覚えています。

「あの人」を殺してくれと訴える「私」。

 あんなに尽くしたのに、なんだ。

 私には意地悪いことしか言わない。


 私はあなたを愛しています、誰よりも。

 あなたがこの世から消えたら私もすぐに死にます。

 あの人は私のものだ。

 私とたった二人きりで生きていってほしい。


 このような愛の言葉が迸ります、抜き書きするだけで赤面しそうです。しかし正当に扱われていないことへの不満が、次第に「私」を追い詰める。

 訴えに至るきっかけは、やはり嫉妬だったのか。

 たぶん、それは妄想だったけれど。

 あなたに仕えることが生きがいで、女に心奪われたことはない、なんて言われると、やはりこの愛は!


 愛と憎しみは表裏一体。よく愛の反対語が憎しみ、と言われますが、それは違う、愛の反対語は「無関心」。

 年を経て読み返すと、13歳の頃とは比較にならないほどに「私」の愛と苦悩が深く深く偲ばれて、また胸が苦しくなります。


「あの人」、「私」が誰なのか、想像がつくとは思いますが、どちらにせよ、未読の方は是非どうぞ、「青空文庫」で無料で読めます。

 かつて、太宰を「滅びの使徒」と表した作家がいました、ぴったりの表現だと思います。


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