第39話 憧憬の結末「さすらいの青春」


「さすらいの青春」は1966年のフランス映画、今も忘れられない特別な作品です。

 私は13歳、主人公のフランソワと同じ年頃でした。

 フランソワの父は小さな村の教師。脚が悪く引っ込み思案なフランソワ、そこへモーヌという転校生がやってくる。

 大柄で明るいモーヌは人気者になり、フランソワは彼に憧れ、いつも後をついて回る。


 数年後、モーヌは森で迷い、地主の息子の結婚の宴に遭遇する。しかし花婿フランツは婚約者に逃げられ自殺未遂、一方モーヌは彼の姉イボンヌとひかれあうが、離れ離れになってしまう。

 パリに出たモーヌはある女性と恋仲になり結婚を考えるが、なんと彼女はフランツの花嫁になるはずだったバランチーヌで、破局となります。

 故郷に戻ったモーヌはイボンヌと再会、結婚にこぎつけますが、フランツが現れ、僕は不幸だ、友達ならバランチーヌを探してきてくれ、とモーヌに頼み込む。


 結婚式の翌朝、モーヌは旅立ち、フランソワはなにくれとなくイボンヌの面倒を見、そばにいるのですが、イボンヌは女児を出産、そのまま亡くなってしまいます。

 階段が狭くて棺を運べないとかで、フランソワはイボンヌの亡骸を抱いて一階へ降りるのですが。階段途中でああ、と声を上げ、イボンヌの髪に顔をうずめる。

 イボンヌを好きだったのか、とも思えますが、私は違うと思います。フランソワはモーヌが好きだったが指一本ふれることはできない。せめてモーヌが愛した女性に、こんな形で触れる、モーヌが愛し気に撫でたであろうイボンヌの髪に触れ、その遺体を抱き下ろす。


 一年後、ようやくモーヌは帰ってきます、そばには幸せそうなフランツとバランチーヌ。

 この二人とモーヌも奇妙な関係ですね、どちらも同じ女性と結婚を考えた、もちろんモーヌは事実をフランツに明かしてはいないでしょうが。


 結局、モーヌは幼い娘を連れて旅だってしまいます。モーヌが帰るまでイボンヌを守る、彼女の死後はその娘を、という使命は終了、もう彼ができることは何もない。モーヌに憧れ続けたフランソワの青春は、ここに終わりを告げるのです。


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