第14話「一寸先は」
日が落ちる。
そもそも木漏れ日しか届かなかった影森庭園に月明かりなどこぼれず、暗闇が辺りを支配していった。しかしそれと同時にあちこちにあるランタンに明かりが灯りだし、それがツリーハウスを照らして幻想的な空間を形成している。
「わあー、おいしそー!」
「これはすごいです……」
ツリーハウスや橋に連結して床板が張られており、ちょっとした広場のようになっている。そこに木製の机や椅子が並び、食事が盛られ、それを明かりが照らし、宴会のような雰囲気を作り上げていた。
食事はほとんど野菜で、いくつかフルーツも盛られている。サラダを中心にマッシュポテトやピザなどが机上を支配していた。
「食べて食べてー」「僕が作ったんだよ」「私もー」「これおいしいよ」「おなかすいた」「早く食べよー」
「うん、ありがとう! いただきまーす」
「いただきますです」
サラとナナは子どもたちの群れに紛れ、勢いよく食事にかぶりつく。昼からほとんど何も食べていないので腹が減っていた。
レイはその様子を机から少し離れた椅子に座って眺めていた。正直腹は減っているが、その前に話しておきたいことがあったのだ。
「食わんのか?」
「……その前に話が」
どこからか現れ近寄ってきたアラスター。この男はいつだって神出鬼没だ。
「ローグ街でなにかあったの?」
「フレッドの様子を見に行っていた」
「あ」
ローグ街襲撃の際に物理的、概念的にも大怪我を負ったフレッド。彼は今ローグ街のとある病院に入院して、しばらくの間寝たきりになっている。
「忘れてた……」
「読者も忘れだした頃だろう。フレッドの容体だが、特に問題はなかった。1ヶ月もせずに復活する」
「そっか……それは良かった」
レイは先日のフレッドを思い出していた。あの時はサラを助けてもらった。感謝してもしきれない。
「それともう一つ別件だが……パライソがこちらの要求を呑んだ」
「ああ……」
納得したように頷く。
正直、これは知っていた。
「パライソの事は聞いてたから、受けてくれるかもと思ってたよ。問題は残りだ」
「……」
レイの意見を聞いて押し黙るアラスター。そこに関しては同意らしい。
「この後どうするの?」
「私はローグ街襲撃の件について、帝都で調べたいことがある。2、3日ここで待っていてほしい」
「ん、分かった」
アラスターがいないとなると、またローグ街襲撃のようになるかもしれない。ただ、今回は魔法使いであるパライソがいる。少なくとも戦力不足にはならないはずだ。
「あと、パライソがレイ達に用があるそうだ。調べたいと言っていたな」
「調べる?」
「ああ。それが私達に協力する条件らしい」
(……なんだろ)
レイの魔力核は通常のそれより優れている。その辺りに用があるのかもしれない。
「それではもう行くが、問題は無いな?」
「たぶん」
アラスターはレイを一瞥すると、軽く頷いて橋へ足をかける。そして橋の手すりを掴み、それを飛び越えて宙へ身を踊らせ、そのまま落下していった。飛び降りていったように見えるが、途中でそのまま滑空して吹っ飛んでいくのだろう。
「2、3日か……」
(何しようかな)
ここには珍しいものがたくさんある。この戦争に向け、何か役に立つものがあるかもしれない。時間は有効に使うべきだ。
「レイ・クラウリー!」
「わっ……ぱ、パライソ?」
急に大声で名前を呼ばれ振り返る。そこには頭の炎を燃え滾らせる魔人が立っていた。本当に声が大きい人(人じゃない)だ。
「どうしたの?」
「アラスターから話は聞いたな? 食後俺の元まで来い」
「あ、ああ、分かった」
さっきは魔力核に用があるのかと考えたが、サラは魔力無し、ナナは聖霊だ。調べる理由は十分にあるだろう。魔法使いは研究熱心だと聞いたことがある。
とりあえず僕も食事をとろう。そう思って立ち上がると、パライソが思い出したように呟いた。
「ああそれと、後でサラを借りるぞ。アラスターから頼まれていてな」
「サラを?」
「ああ。自衛の手段がいるらしい。俺の出番というわけだ」
「へえ……それは助かる」
自衛の手段、とは何だろうか。結界を張れる魔道具なんかがあるのかもしれない。サラは魔法が使えないので、そういったものがあると非常に助かる。
「それでは、さらば!」
そう言うとパライソは踵を返して近くの橋へ向かった。顔が炎なので表情は読めないが、うるさかったり身振り手振りが激しかったり、外見以外から伝わってくる情報が多いので感情は分かりやすい。
レイも食卓へ近づいていく。
「ふう、お腹すいた」
「あ、レイ、これ見て、超おいしいよ!」
「うん、美味しそうだね」
叫ぶサラににこやかに笑って返すレイ。
サラはここに来てからテンションが上がりっぱなしだ。レイとしては嬉しいことだが、普段と違うサラの様子にナナは疲れているようだった。
「サラ……テンション高すぎです……」
「? そうかな?」
キョトンとした様子のサラ。どうやら自覚は無いらしい。
なる腹を抑え、近くにあったピザに手を伸ばす。トマトがふんだんに使われており、ケチャップも合わさって真っ赤に染まっていた。
「ん、ホントだ、おいしいコレ。みんなで作ったの?」
「うん」「僕も作ったよ」「私もー」「一緒に作ったんだー」
子供たちがレイにアピールをしている。その一人ひとりに、似通っている点など皆無だった。
まさに人種のサラダボウルと言った顔ぶれの子供たちだが、特にグループなどはなくみんな仲良しらしい。これだけ異形が集まっていること自体珍しいのに、ここまで関係が良好なことがあるんだろうか。
「みんな仲良いんだね」
「うん!」「えへへー」「友達だよー」
楽しそうに笑う子供たち。その空間はまさに平和を体現していた。
戦争が悪化すれば、こうやって笑い合うこともできなくなる。
(終わらせないと)
改めてそう、心から誓った。
辺りは暗い。
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