第12話「かいつまんで」
「わあ、高いね……!」
ぶら下がる橋から身を乗り出すサラ。木製の橋は軋んで音を立てる。
影林庭園、その上部。ツリーハウスの間にかかる橋を渡っていたサラは、そこから見える景色に感銘を受けていた。60メートルもの高さから見た景色は、森の中とはいえ普通は美しいものになるだろう。
安全さえ確保されていれば。
「サラ! 落ちます、落ちますって!」
「いや大丈夫、この橋丈夫そうだし!」
「嘘でしょ!?」
身を乗り出しているサラに抱き着いているナナ。落ちないように支えているつもりなのだろう。どう見ても丈夫とは言えないおんぼろな橋だが、サラは身の危険など感じていないようだった。
「ていうか、ナナは落ちても飛べるでしょ?」
「サラは落ちたら飛べないでしょうが!」
「アハハ。あっ、パライソさん見える! おーい!」
「ひいいいい!」
更に身を乗り出して手を振るサラの腰を必死に抑えるナナ。
それをそばから眺めていたレイだが、サラが落ちた瞬間に下に飛んでいけるように準備をしていた。この高さならばなんとか間に合うだろう。
「ここは6階です。60メートルの高さにあるのでそう呼んでます」
「なるほど、分かりやすい。案内ありがとうねアルス、ロメリア」
「いえいえ」
「……は、はい……」
落ち着いて話すアルスと、相変わらずたどたどしい口調のロメリア。
(ほんとにサラとそっくりだ)
レイはアルスの後ろにコバンザメのようにくっついているロメリアを見て思う。いや、サラは魔法のことや未知の存在の話になると流暢に話すので、人見知りはサラ以上に深刻かもしれない。
サラ達はアルスとロメリアに連れられて、この森を案内してもらっていた。とはいっても巨大樹にツリーハウスと、森のどこへ行っても同じような景観だ。
「ここには何人くらいいるの?」
「114人です。ほぼ全員異形ですね」
「そんなにたくさん……」
「はい。今の時間はみんな生き物の世話に出てます」
橋を渡りながら、先ほど下から見えていた子供たちを思い出す。彼らも人間に見えたが、体のどこかしらに違っている部分があるのだろう。レイはあまり異形に詳しくないが、サラならきっとどんな異形か分かるのではないか。
「ねえ、サラ、さっきの……え!?」
「レイ……へるぷ……」
「ちょ、レイ、引っ張ってください、落ちますです!」
橋から身を乗り出しすぎて、腰から先の上半身が宙ぶらりんになっているサラがいた。ナナが自分も引きずられながら必死に引っ張っている。
「──サラアアアアァァ!!」
足元に爆炎をまき散らしながら吹っ飛ぶレイの悲鳴が、影森庭園中に響き渡った。
「サラは思っていたより快活だな」
離れた大樹から手を振っているサラを見て、パライソは手を振り返しながら呟いた。橋から身を乗り出して、ナナがそれを必死に抑えている。
「普段はあれほどではない。興奮しているのだろう。」
円卓に座ったまま答えるアラスター。賑やかだった部屋は静まり返り、声がよく響いている。
パライソはアラスターを一瞥すると、彼の向かい側の席に座った。
「して、何用かな、我が盟友よ」
「……ああ、そうだったな。話は二つだ」
そう言ってアラスターは肩肘をつくのをやめ、パライソの方に向き直る。返答する声が少し暗かった。
なんとなく察したながらも、パライソはそれを問いたださない。
「一つ目はサラだ。サラに自衛の手段を与えてやってくれ」
「自衛?……ああ、魔力がないんだったな。結界式が使えないのはまずい」
「ああ、今後必要になる」
この国の人間は皆子供のうちに、ある程度の自衛の手段を魔術によって獲得する。基本的には結界式がそれだ。また、攻撃は最大の防御と言われるように、攻撃系統の魔術を獲得するものも少なくない。
だが魔力のないサラは、そのどれもを獲得することができない。
「なるほど、任せるがいい。それで二つ目は?」
「こちらが本題だ。かいつまんで言うと……戦争を止めるから手伝え」
「かいつまみすぎだろ」
思わず素でツッコむパライソ。急に何を言っているのか。
「どういう経緯だ?」
「戦争を止めたいから止める事にした。だが戦力が足りないから手伝ってくれ」
「ボキャ貧かよ」
再びツッコまれて頭を掻くアラスター。もう少し語彙はないのだろうか。
「とは言っても、本当に経緯はそれだけだ。あの子達と協力して戦争を止める事にしたが、流石にそれだけでは国教会に対抗できん。だから魔法使い達に協力を要請している」
「なるほどな。自衛の手段というのもそのためか……あ? 魔法使い
パライソは驚いてアラスターを凝視する。アラスターの目はどこまでも座っており、冗談を言っているようには見えない。
パライソの反応になんの困惑も見せずアラスターは語る。
「お前が1人目だ」
「正気かアラスター? 誰が協力する? 『結束』と『叛逆』は論外だぞ?」
「次は『久遠』のもとへ向かう。問題は無い」
「……」
パライソは絶句しているようだった。目があれば見開いていることだろう。
それでも表情を変えないアラスターを見て、パライソは苦笑を漏らす。
「……クク、そうか、そうだな。お前はそういうやつだった」
アラスターのやり方に不満はある様だが、どうやら納得したらしい。アラスターはそれを見計らってパライソに問う。
「それで、手伝ってくれるのかね?」
「ああ構わない。俺の
そう言ってパライソは指を立てる。手袋の中はどうなっているのか、おそらくパライソしか知らないだろう。
アラスターは頷いてパライソの言葉を待つ。
「何かね?」
「レイ、サラ、ナナ。3人を少し調べさせろ。それでお前に従ってやろう」
「構わないが、何をする気だ?」
アラスターに問われ、パライソは「クク」と笑い声を漏らす。何やら嫌な予感がするが、手伝ってもらう手前それを断ることはできない。
「何、ちょっとした
「そろそろ無駄な横文字やめろ」
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