第9話「集めて集めて」

 「あ、おいしい」


 グチャグチャになった芋を再び圧縮して固めて。そうしてできた何かを口に運ぶ。

ナナと協力して朝ごはん(昼)を完成させたサラ。しかし出来上がったのは料理と呼べるものではなかった。ただ芋を茹でただけなので失敗してもそこそこ美味しい。

サラもそうだが、特にナナは料理が苦手だ。


 「失敗しても何とかなるもんだね」


 「やっぱりレイにも手伝ってほしかったです……」


 「ハハ、ごめん。でも結構美味しいよ」


 落ち込んでいるナナと楽しそうなレイ。レイは料理上手だが、サラたちが作った料理をいつも美味しそうに食べている。彼は何を食べても美味しいと言いそうだ。

教会の一室で取り分けた芋モドキを3人で囲んでいると、部屋にアラスターが入ってきた。


 「おはよう諸君。……なにこれ」


 「芋」


 「芋です」


 「マジ?」


 普段の雰囲気は何処へやら、困惑した様子のアラスター。ちなみにこれは彼の昼食にもなる。

アラスターは開いている席について、用意されていた芋をフォークに突き刺した。そしてそれを恐る恐る口へ運ぶ。


 「あ、食える」


 「でしょ?」


 ほぼ茹でただけみたいなものだけど、と付け足してサラも芋を頬張る。昼まで寝ていたせいか腹が減っていた。

同じく芋を頬張りながらアラスターが話し出す。


 「それで、早速だが戦争の件だ。3人とも協力してくれるのだろう?」


 「うん!」


 「頑張るですよー」


 「……」


 張り切る二人に対してレイは黙ったままだ。

詰め込んだ芋を無理やり飲み込んで、サラはアラスターに質問する。


 「でも協力って具体的に何するの?」


 「ていうか、どうやって戦争を止めるのです?」


 ビジョンは全く浮かばない。強いて言えば力ずくぐらいか。もしそうならサラに出来ることは何もない。

アラスターは一息つくとおもむろに考えを話し出す。


 「まず、我々には数が足りない」


 「かず?」


 サラは疑問に思いアラスターを見上げる。


 「仲間がいないってことです?」


 「そういうことだな」


 ナナの意見をアラスターが肯定する。

仲間がいない。そんなことがあるだろうか。


 「でも、戦争を止めたい人なんていっぱいいるんじゃないの?」


 戦争が続いても良いことなどない。サラたちと同じように、終わらせたい人たちに頼めばいい。

そうでなくとも、アラスターは魔導教でそれなりの立場にいるはずだ。仲間を集めるくらい容易いのではないか。


 「そうだとしても協力を仰ぐことはできない。仲間が全くいない訳ではないが、ともかく数に期待はしないでくれ。すまないな」


 「あ、いや……」


 控えめに話すアラスター。サラは困惑しながらも話を続ける。


 「じゃあまずは仲間を集めるの?」


 「そうだ。だがなるべく少数精鋭にしたい。その方が色々と都合がいい」


 アラスターの話し方に、サラは少し違和感を覚えた。

 (何か隠してる?)

隠し事をする理由は見当たらないが、何かあるのだろうか。


 「そこで、5人の仲間を集めようと思う」


 「5人、ですか?」


 不思議そうなナナ。少ないのでは、という顔をしている。

しかしサラは目を見開いて固まっていた。アラスターの言葉の意味に一瞬で気づいたからだ。


 「5人って……もしかして……?」


 ああ、と相づちを打ってアラスターが答える。


 「5人の魔法使いだ」


 それを聞いて、3人はそれぞれ異なる顔を見せた。

サラは歓喜。

ナナは驚愕。

そしてレイはよりいっそう険しい表情に。


 「魔法使いに手伝ってもらうの!?」


 サラはとても嬉しそうに言う。憧れの魔法使いと協力できる、サラにとって夢のような状況だ。

アラスターが続ける。


 「そうだ。彼らの技術や権力等が、この戦いに必要なのだ」


 「そんなこと、できるのですか?」


 ナナが驚きを保ったまま問いかける。

魔法使いを仲間に引き入れるなど可能なのか、と聞いているのだ。

アラスターは言い聞かせるように答える。


 「できるとも。そして3人に頼みたいのは、彼らを引き入れる事だ」


 「「え?」」


 サラとナナが同時に聞き返す。


 「つまり、魔法使いを集める手伝いをしてほしい、ということだよ」


 「「…………ええ!?」」





 昼食後、レイは教会の外に出ていた。

このローグ教会は丘の上に立っていて、ローグ街全域がよく見渡せる。先日の襲撃で崩れかけている学堂。ボコボコと段差のある街並み。街の中央にある噴水広場で子供たちが遊んでいるのが目に入る。

レイは少しばかり気が沈んていた。

(魔法使いと……協力……)

そんな事をすればどうなるか、なんて考えたくもない。


 「レイ?」


 「……サラ」


 「大丈夫?」


 考え事をしているとサラが声をかけてきた。

恐らく自分は不安そうな顔をしていた事だろう。心配してくれたようだ。


 「うん、大丈夫だよ」


 サラを安心させようと笑顔で返す。


 「そう? ならいいけど。さっきもずっと黙ってたし」


 まだ不安そうなサラ。改めてその姿を目に捉える。

自分と同じ白い髪。同じ背丈。同じ瞳。

その姿が愛おしい。


 「大丈夫だから、そんな顔しないで」


 「え? ああ、うん、そうだね」


 フフ、と声を出して笑うサラ。レイも合わせるように笑いながら、心の中で強く思う。

(守らないと)

それが自分の、レイ・クラウリーの役目だ。

そのためだけに僕は在るのだから。

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