死の魔法



ただひたすらに、白い空間にいた。

気付けば僕は、白い空間に座っていた。

僕は多分終わったのだろう。


そう考えた途端、僕は震え出した。

上を見上げると、僕がいた。

僕と全く同じ顔。僕を見下ろして立っている。


「僕はなんで、終わったの?」


僕に尋ねた。

僕は悲しい顔をしただけで、何も言わなかった。


「……自分で、終わったんだっけ」


僕が頷く。


「どうして、君は、君達は、上手く生きられないんだろう。『僕』はどうして頭が良くならないのだろう。『僕』はどうしてずっと口下手なままなんだろう。君だってずっと頭が悪くて、ずっと色々な事が下手くそだった」


僕は、うんと言って俯いた。


「君くらい、話すのが上手だったら良かったのにな」


「馬鹿だよ。もう終わったって分かるだろ。後悔とか、馬鹿だ」


僕はそうだねと言う。

僕はもう悲しそうな顔はしていなかった。


「君はどうして終わったとか、知ってるけど理解は出来ないよ。馬鹿だと思ってる」


うん。また頷いて、俯く。

僕が、しゃがんで、僕の首筋に両手を当てた。

僕は驚いて、体を硬直させる。僕と目が合った。


「君は、他人に首を触られるのが苦手。君はなんでか、ここを切って終わった。その前の君は、ここを吊った。前の君も、首を触られるのが嫌いだった。その前も」


僕の言った事は、本当にそんな気がした。

あの時、終わるのは初めてじゃない気がしたから。


「君は、悪口ばっかり聞かされてた。悪い言葉に身を小さくした。聞かされる言葉が辛くて、自分が話すのもどんどん辛くなった。話さなくなると、話すのが下手になると、悪口ももっと酷くなった」


僕は僕を見ていた。僕はじっと僕を見た。震えているのはまだ止まらない。


「ずっと、君達は下手くそなままだから、僕が代わってあげたいけど、出来ないんだ」


僕は、僕の首筋に当てていた手を、僕の両頬に当てた。


「ごめんね。また君に、頑張って貰わなくちゃ」


僕は何故だか安心した。


「うん。大丈夫だよ。今度はちゃんと、出来たら良いな」


僕は頷いた。僕を安心させたかった。


「君はまた、真っ白になって、最初から始めるんだ。辛かった事も、全部忘れて」


「また、終わったら、ここで思い出すの?」


「いいや、違う。君は、僕は、今度こそちゃんと、赦されるんだ」


僕は辛そうな顔をしていた。代わってあげたいという気持ちが伝わってきた。

出来ないんだと言った僕の気持ちも。


「僕は、君達が世界を捨てる理由が分からない。僕は後悔したんだ。僕はもう二度と途中で終わらないって。でも僕だから、僕達は、何度も途中で終わってしまう。ねえ、お願いだ。途中で終わらないで。この世界を、どうか好きになって」


僕は泣いていた。泣く僕を、僕は何度も見ている気がする。

僕はそれを、何度も忘れて、そしてまた、この僕を見る。


僕は何度も嫌って、また次こそはって期待する。今もまた期待している。


「次は、好きに、なれるかな。なれたら、良いな。君が、世界を好きな様に。僕はまた、頑張らなくちゃ」


「ごめんね。どうしてか君は、ずっと辛い思いをする。次もそうなるかもしれない。それでも、途中で終わらないで。見捨てないで。ちゃんと、死を嫌っていて」


「うん。きっと、次は、大丈夫だから。僕もずっと、辛いよね。僕のせいだ」


「そんな事ない。僕が一番、悪いから」


僕は首を振る。

だんだん目を閉じる。

僕が額を合わせる。


「次は、世界を好きに、なれると良いね」


そっと呟いたのは、どっちの僕だろう。




僕が消失した。

僕はまた始めた。

何度も何度も、赦されるまで、繰り返す。

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