眠る前の話



布団の中、考える事。

僕は、子供だ。

凄く自由で、どこへだって行ける。


飛び立つ。

抜け殻の僕を見下ろして、部屋をぐるりと一周する。

開いた窓から夜の街へ。


蛍光灯の灯、ネオンライト、道路の灯、飛行機のライト。高層ビルの警告灯。

赤、黄、赤、赤、赤。

夜色の街をあっという間に飛び抜けて、海の上。真昼の空。


知らない国。

異国の街角。

潮風がするよう。心地良い風に乗って僕はぐんぐん飛んで行く。


僕は時代も飛び越える。

古戦場を飛ぶ。

弓矢が僕の真横を飛び抜ける。

僕はちっとも怖くない。


いつの間にか僕は、僕の昔の夢を見ている。

昔見た夢。

僕はよく同じ場所にいた。

知らないオフィス。

人は全然いなくて、いつも、どこからか同じ人が現れる。


よく見知った人の筈なのに、現実にはそんな知り合いはいない。

昔の友達が気付けば隣にいた。

何か話しているのに、その内容はちっとも覚えられない。

次に前を向いた時には、また僕はひとりだ。


飛ぶのをやめて、よく知った部屋にいる。

僕はもう子供では無かった。

雨なのか、曇っているのか、部屋は薄暗い。

ああここから先は見たくない。


これは夢だったか思考だったか、そんなのはどうでもいい。ただ早く現実に帰りたい。ここから先はただの悪夢だ。

分かっているのに、僕はまたその先を見る。

母が背を向けて座っている。


「母さん」


声を掛けても、母は振り向かない。

大人しく座っているように見えたのに、母は何か叫び出す。

叫び声は長く続いた。

母の叫び声の合間に、父の声も響いた。姿は見えない。


急に静かになったと思うと、母はもうそこにはいなくて、代わりに彼女がいた。

彼女も背を向けていて、絶対に振り返ってはくれない。


「ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


僕は彼女にしがみついてただひたすら謝る。

わけもなく、ただただ。

しがみついていた彼女はいつの間にか消え去って、僕がひとり白い部屋に残る。

ひとりだ。


もう誰も現れやしない。

時計の針の音が耳に響いて、目を開ける気になる。

もとの部屋、布団の中の僕に戻っている。

今度はちゃんと夢を見る為に目を閉じる。

明日になれば、さっきまでの夢か思考は忘れる。

そうしてまた、いつか眠る前に同じものを見る。


最低の悪夢。

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