第44話 勉強会

「えっと……。じゃあ、圧縮して剣とかの形を作る感じなの?」


「そうだな。魔法は基本イメージから作り出される。人がこうしたいから動くように、魔法も頭の中で考えたことがそのまま出てくる。例えば『ハリクララ』は、よく使われる魔法。そして、人々はそれを聞いた途端最初に思い浮かぶのは、火属性の魔法が圧縮されてできた玉だよな?」


「あっ、確かにそうかも。わたしも『ハリクララ』って言われて最初に思い浮かんだのはそれだった!」


「だろ? でもそれって実はずっとそうやって教え込まれていたからだ」


「どういうこと?」


 ティフィーは、俺の方を振り向いて首を傾げた。

今、彼女に教えているのは魔法の根本的なところだ。

前回は、体に流れる魔力とは何なのかということを教えていた。

それに引き続き、今回は魔法とはそもそも何なのか、そして、魔法を詠唱する意味を教えていた。


「一番わかりやすいのは、俺たちが今喋っている言葉」


「言葉?」


「そうだ。言葉は人々と親しみやすくするため、交流するために発展して出来たものだ。共通の言葉を知っていれば、簡単にコミュニケーションが取れるだろ? それがその国の標準語として当たり前に使われていたわけだ。だがここでティフィーは考えてみて欲しい」


「――――?」


「今こうして言葉を話しているが、それは誰かがこうしようと決めて周りに広めたた。そして、それが便利で影響されて自然と標準語になっているって考えることが出来るよな。じゃあ、ここでティフィーに問題だ」


「うん!」


「今はこの言葉が当たり前になってるが、それを他の人が決めたらどうなる?」


 俺はティフィーに問題を投げた。

それを聞いたティフィーは、斜め上を見上げながら考え込んだ。


「んー? あ、違う言葉になっていたかも、しれない?」


「正解だ!」


「やったあ!」


 ティフィーは両手を上げて喜びを表現する。


「だから、本来は『ハリクララ』っていう詠唱は違う言葉でも良いんだ。ただ、『ハリクララ』と言っておけば、自然とそういう発想になるからそうしているだけだ。魔法の構築は全部想像だ。自分の魔法の適正に合わせた魔法を作り上げることで、自分に最適で強力な魔法が作ることができる。だから、俺みたいに不思議で誰も身につけていないような魔法を身につけられるってことだ」


「へえ……。じゃあ、魔法をオリジナルに作れるのは、わたしにも出来るってこと?」


「ああ。ティフィーにも出来るし、魔法をあまり上手く扱えない人々にも出来る」


「わあ、すごい! ルーカスは本当に天才だよね! ますます好きになっちゃう……」


 そう言って、ティフィーは頬を少し赤くしながら俺を見る。

本来なら、彼女のこの顔にドキッとさせられるのだろうが、俺はならない。

優しく笑ってあげることしか俺には出来ない。


「よし、じゃあ今日はここまでだ。俺は明日から前線に行かないといけないから、しばらくは教えられないな。だから、次は来週になるな」


「わたしはいつでも大丈夫。帰ってきて、ルーカスがしっかり休めたらまた言うから」


「おう」


「じゃあ、今日もありがとうございました先生!」


「はい、お疲れ様でした」


 お互い挨拶を交わすと、ティフィーはささっと書斎を出ていった。


「んーん! さて、アンラのところに行こうか」


 背伸びをしたあと、俺は書斎を後にした。

階段を上がり、アンラのもとへ向かうことにした。

城の廊下は月明かりで照らされ、幻想的な景色が広がる。


(夜の城の中も、昼とはまた違った綺麗さがあるよな。俺はけっこう好きなんだよな、この雰囲気)


 しばらく廊下の真ん中で立ち止まって、青白い光に照らされた廊下を眺めた。

本当に美しい……。

まるで絵に描いたような感じだ。

この景色を十分に堪能したあと、俺は部屋へ向かい、そしてドアを開けた。


「あ、おかえりルーカス」


「ただいま、遅くなってゴメン」


「ティフィーちゃんに教えていたんでしょ? それなら文句は言わないわ」


 サエイダの寝顔を見ながら、アンラはそう言った。

月明かりに照らされた彼女の姿は、廊下の景色よりももっと幻想的だった。

綺麗、美しい……。

俺は思わず見惚れてしまっていた。


「――――? どうかしたの?」


「あ、いや。アンラがあまりにも美しかったもんで……つい見惚れてしまっただけだ」


「――――! もう、ばか……」


 アンラは顔を赤くし、困った顔をしながら視線を逸した。

その表情に俺は喉をコクっと鳴らした。

アンラのその表情を見るのは、本当に久しぶりだったからだ。

 顔が一気に熱くなった。

俺もアンラと同じ、顔が真っ赤になってしまっているだろう。

少し気まずい空気になりながらも、俺はアンラの隣に座った。


「――――はは、サエイダは笑いながら寝てるな」


「うん。何か楽しそうな夢でも見てるのかしら」


 サエイダは口端から涎を垂らして、笑った顔で爆睡していた。

アンラの言う通り、何か楽しい夢でも見ているのだろう。

サエイダの寝顔を見ていると、こっちまで幸せに包まれるような気がした。

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