第16話 部隊隊長

 疲れきって眠ってしまったアンラを運んで戻った俺は、テントの中にアンラを寝かした。

 ――――何回もあの場面を思い浮かんできて本当に恥ずかしい!

アンラの色気が凄すぎて色々と大変だった。

特に営む直前のあの言葉は本当に凄すぎる。

 これも魔王の力なのか?

だとしたら恐ろしい……。

おかげで俺は止められないほどに暴走してしまった。

 さて、出発まではまだまだ時間がある。

シャイタンから今まで騎士達と交流がひとつもないから、ちょっとお邪魔させてもらおうかな。


「あのー、俺も入ってもいいか?」


 ギロリと俺を見てくる騎士達。

怖いよ……。威圧感が半端じゃない。

魔族とモンスター達の集まりだから余計恐怖感が漂う。


「良いぜ!」


 めちゃくちゃ親切でした!

もはや最初から親戚とか、ご近所の人と話すような感覚だった。

やっぱりそこは人間との違いなのか?


「俺はフィルだ。第二陣の隊長を努めてる」


「僕はヒサン。第一陣の隊長だよ!」


「バカラ。第三陣の隊長」


「ハーイ、わたしはディージャジャだよ!空部隊の隊長よ」


 まさかの隊長の集まりだった。

 ヒサンは馬の姿をした魔族だ。

第一陣だから1番先頭攻撃部隊だ。

 フィルは大きな耳、大きな体が特徴だ。

第二陣は攻撃、防衛の2つを担っている部隊だ。

 バカラは牛のモンスター。

どっしりとした体つきで強そうだ。

第三陣は完全防御部隊。

そのため、めちゃくちゃ重そうな重装備をつけている。

 ディージャジャは背中に翼が付いている魔族の1人。

ディージャジャは隊長の中で唯一の女性だ。

空部隊は敵の不意打ちをつく攻撃、敵の偵察隊だ。


「ルーカス君って元アーリア王国の七帝だったんでしょ? わたし達の味方っていうのも不思議だよね!」


 こんな感じの口調だが、見た目はクールで高身長、そして格好良い。

少し男っぽい見た目だ。

 だから男しかいないこの隊長の中にいても、全然違和感がない。


「確かになぁ、今までアーリア王国はイカれた野郎が多いイメージだったんだがな」


「まぁ、軍事国家だしなぁ……」


「ルーカス、こいつに気遣わなくて良いよ。こいつ文句言わないやつだから」


「なにおぅ!」


 フィルが立ち上がった瞬間、ヒサンはものすごいスピードで逃げて行った。

フィルも負けじとヒサンの後を追いかけて行ったが、ヒサンには追いつけないだろうな。


「ごめん、こんな騒がしい奴らで」


 物静かに俺に謝ってきたバカラ。

バカラはおっとりとした性格なのか……。

この中では唯一、静かな存在と言えよう。


「逆に良いんじゃないか? 騒がしい方がお互い楽しいだろ?」


「そうでしょそうでしょ! 分かってるじゃない。このこの〜」


「うわっ! や、やめてくれよ……」


 ディージャジャは俺の首に腕を回してくると、俺の頭を拳でグリグリしてくる。

結構力あるせいか痛い。

 アーリア王国にいた時は戦いの前は誰一人として喋る者はいなかった。

相当ビリビリした雰囲気だったのを覚えている。

軽い気持ちで来た者は、即座に怒鳴られて体罰を受けるほどだった。


「どうかしたの? 急に黙り込んじゃって」


「いや――――アーリア王国にいた頃を思い出しててさ。でも、この場にいると……。

やっぱりシャイタンに来れてよかったなって心底思うよ」


「「―――――」」


「シャイタンに連れてこられた時、俺は死を覚悟したんだ。でも、アンラのあの反応と住民たちの優しさがさ……」


「本当にあの時はびっくりしたわよ。出発する数日前に、魔王様とルーカスが夜2人きりで仲良く話してるんだもの」


「―――――はい?」


「僕もそれ聞いた時びっくりしたよ」


「ヒサン!? い、いつの間に……」


「がははは……! 噂にはなっていたが、まさか本当だったのは俺も驚いたがな!」


「フ、フィルまで……。恥ずかしい……!」


 俺は手で顔を隠した。

4人から見たら、俺の顔から煙が出ていて真っ赤になってるだろう。


「―――――でも、お似合いだと思う」


「―――――!」


「バカラの言う通りだぜ。それにルーカスが俺たちの国に来なかったら、今頃、いや、もっと前には魔王様は鬱になってたかもしれねぇんだ」


「う、鬱!?」


「そうそう」


 ディージャジャは立ち上がると、


「ルーカス君が来なかったら、魔王様は潰れていたかもしれないのよ。ほら、ルーカスも分かると思うけど、あのお方、自分のこと犠牲にしてまで仕事しようとするじゃない?」


 ディージャジャの言う通りだ。

アンラは自分より市民のことの方が気を使っているため、市民の仕事まで行おうとする。

何処かでトラブルがあればすぐに飛び込んで行く、そんな性格だ。

 何度かそれをやり過ぎて体調を崩す羽目になったこともあった。

俺が止めようとしても、


「市民のみんなが困ってるから行かないとダメ!」


 と言って、仕方なく同行することもあった。


「魔王様は兄弟がいない。そして身内は先代のイムベラートール様のみ。サポートしてくれるような者はいなかった」


 バカラは地面を見つめながらそう話した。

バカラだけでなく、他の3人も暗い表情をしていた。


「アンラを、助けたかったんだな?」


「―――――そう。僕らは何としても魔王様の助けになりたかった……」


「身分は違えど、俺らも市民のみんなも魔王様を助けたかった……」


 フィル、ヒサン、そしてディージャジャも体を震わせていた。

もう、見るに耐えられなかったんだろうな……。

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