スラップスティックアニメ

そんな調子で三度『やらかし』て、さすがにばんも理解したのか、バドを見付けて追いかけても、途中で諦めるようになった。


が、


『バドに襲い掛かる』


ということについては何故か諦めようとしない。彼にとってはよっぽど腹に据えかねる存在なのだろう。


とは言え、バドとしても彼を観察する役目が与えられている以上、それを放棄することもできない。ロボットには、


<自身の役目を放棄するという概念>


がないのだ。自身がそれを果たせなくなれば別の機体に役目を引き継ぐだけだし、バドはそういう意味ではまったくもって健全なので、引き継がなければいけない理由もない。


ちなみに、基本的にはメンテナンスフリーの設計になっていて、部品が故障でもしない限りメンテナンスを受ける必要も、少なくとも数年はない。メンテナンスが必要になれば回収に来てくれることになっている。


で、毎日のようにばんに見付かって、バドは追いかけ回されていた。


その姿は、どことなく、


<間抜けなネコと賢いネズミの追いかけっこを描いたスラップスティックアニメ>


を思わせた。ばんは真剣なのだが、バドは基本的に余裕であり、ばんが疲れて諦めるまでただ逃げ回るだけである。


そして逃げ切ると、ばんに気付かれないように彼を観察するのだ。


そんな状態が数ヶ月続き、遂に、ばんはバドに気付いても追いかけなくなった。追いかけても無駄なことを、これだけの時間をかけてようやく理解したようだ。


すると今度は、徹底して無視し始めた。


さりとて、バドとしてはむしろその方がありがたく、しかしなるべくばんのストレスにならないようにと、彼の視界には入らないように努めた。


そんなバドの体に、やはり小鳥や昆虫がたかる。


よく見ると全体的に薄汚れたような印象になってきているが、ロボットであるバドは、生き物のように自身が臭くなったりはしない。付着したものが臭いを放つことはあっても。


とは言えそれすら、逆に、自然に溶け込むには都合がよかっただろう。最初の頃に比べても、密林の中で佇んでいても違和感がなくなりつつあるようにも見える。


が、そうして違和感が薄れてくると、今度は、密林の動物達がバドを恐れなくなっていったようだ。


特に、猪竜シシと呼ばれる、ブタに似た獣は、なぜかバドを目の敵にし始めた。


猪竜シシは、密林の動物の中では小型に含まれる大きさながら、その名の通り、ブタに似ていつつ気性や習性はイノシシに近く、密林の中ではどちらかと言うと<捕食される側>なのだが、生身の人間ではおそらく勝ち目がない程度には強力な<猛獣>でもあった。


特に<突進>は、大型の個体ともなると五十キロはあるので、下手に食らうと人間の内臓くらいは容易く破裂させるだろう。


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