得体のしれない不気味な獣

ばんボクサー竜ボクサーに取り囲まれていく様子も、バドは記録していた。


本来ならここで、彼がボクサー竜ボクサーに襲われ命を落としたとしてもそれ自体が自然な成り行きなので、手出しはしないはずだったのだが、今回は少し事情が違った。


そもそも、アサシン竜アサシンの攻撃を躱した際にばんに気付かれた上、密林の中でばんの追跡から逃れるのは難しいという理由はあったにせよそのまま相手をしてしまったことでこの事態に至ってしまったのは、バドの側の判断ミスだった。それがなければばんがこんな危険に曝されることもなかった。


ゆえにバドは、敢えて動いた。ボクサー竜ボクサーに向かって。


「キイッ!?」


ばんを包囲するために動いていたボクサー竜ボクサーの一頭が、突然現れたバドに驚き、声を上げた。


「!?」


それでばんも、自分の周囲をボクサー竜ボクサーが取り囲もうとしてることにようやく気付いた。けれど、まだ体は満足に動かない。今、一斉に襲い掛かられたら対応できない。


しかし、


「ギャッッ!」


ばんを包囲していたボクサー竜ボクサーが悲鳴を上げる。バドに気付いた一頭が襲い掛かったが、逆に打ちのめされたのだ。


すると、ボクサー竜ボクサー達は、ばんは後回しにし、バドをまず片付けようとした。ばんはまだ当分まともに動けそうにないと察したのだろう。


なかなかクレバーな判断だ。


が、本当に<賢い判断>をするなら、ここは逃げるべきだった。なのに、<絶好の機会>を前にして欲をかいてしまったのだろうか。バドを片付けてからばんに襲い掛かることに執着してしまったのかもしれない。


ボクサー竜ボクサーは、非常に狂暴な肉食獣であると同時に、本質的には臆病な獣だ。バドのような、


<得体のしれない不気味な獣>


がいるとなれば普通は距離を取るものなのだ。なのに今回は、向かって行ってしまった。


しかも、一頭がやられると、他のボクサー竜ボクサーの攻撃性に火が点いてしまったのか、次々と襲い掛かってきた。ばんを襲う手順をそのままバドに向けてしまったとでもいうかのように。


けれど、とにかく相手が悪かった。先ほども言ったように、逃げるべきだったのだ。なのに襲い掛かったものだから、片っ端から打ちのめされた。


「ギャヒッ!」


「ギヒッッ!」


バドは、四本脚の前二脚のタイヤをボクシングのグローブのように使い、連続してパンチ(脚なので本当はキックだが)を繰り出して、ボクサー竜ボクサーを迎え撃つ。


ばんの猛攻にも怯まないバドが相手では、そもそも勝ち目などなかった。


仲間の大半が打ちのめされたところで、ようやく、ボクサー竜ボクサー達は逃げ出したのだった。


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